日賑グローバル・ニュースレター国内版(第304号)
1. 連邦政府財政赤字枠問題に伴う政争と次期大統領選
2. ”軽薄”や”ばかげた”という表現を受けたトランプ前大統領の訴訟行為
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
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1.連邦政府財政赤字枠問題に伴う政争と次期大統領選
昨年の米国中間選挙で下院与党に返り咲いた共和党は来年11月の改選と大統領選に向けバイデン政権と民主党に対する対抗姿勢を強めている。
連邦政府の累積赤字額が今夏にも上限枠に達する見通しであることからイエーレン財務長官始めバイデン政権はその上限枠拡大を議会に働きかけているが、議会共和党の有力議員の中には上限枠拡大の条件闘争としてエンタイトルメントすなわち年金(ソーシャルセキュリティー)支給額とメディケア(65歳以上の国民の医療費の政府負担)の見直しを求める発言をする者もあらわれている。
これに対し、トランプ前大統領が先週金曜、2分以上もの長めのビデオメッセージでその動きに反対する姿勢を示した様子をワシントンポストが報じた。
共和党の伝統的に小さな政府、財政赤字削減を求める姿勢は、オバマ政権では共和党保守支持層がティーパーティーという運動でまさにその真骨頂を見せた。
一方、同じ共和党でもトランプ前政権の4年間で財政赤字は7.8兆ドルも増大している。
その主な原因はトランプ減税だが、連邦議会ではその間3度、財政赤字枠拡大を認める投票を行っており、今月新たに下院議長となったケビン・マッカーシー議員を含め、共和党議員はほかの予算費目の削減を求めることなく賛成投票を投じてきている。
ワシントンポストの憶測ではトランプがエンタイトルメントに手を付けることに強く反対する背景に2012年の大統領選の教訓があるという。
この時、共和党大統領候補のミット・ロムニーが副大統領候補に選んだポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州選出)はそれ以前、シニア向けエンタイトルメントに手を付ける発言を行っており、そこを民主党側に攻め込まれたことがロムニーの最大の敗因とトランプは発言している。
既に来年の大統領選モードに入っているトランプとしては、シニア票を絶対に失えないということであろう。
一方、伝統的共和党支持層の価値観にも配慮し、途上国支援や軍における女性やLGBTQ支援、そして気候変動対応の予算をカットすべきとのメッセージを同じビデオの中で主張している。
上述のエンタイトルメント見直しに関する一部共和党議員の発言に対し、マッカーシー下院議長や上院共和党院内総務のミッチ・マコーネル上院議員(ケンタッキー州選出)は距離を置いている。
一方、ホワイトハウスの報道官は「下院のMAGA(Make America Great Again)共和党議員が財政赤字予算枠問題を人質にして年金と医療保障費をカットしようとしている)と非難。
上記の通りトランプ自身はエンタイトルメントに手をつける動きに反対しているにもかかわらずトランプを象徴するMAGAの表現を使ってネガティブキャンペーンを図ろうとしている。
今後、バイデンの機密書類違法持ち帰り事案など両陣営の非難の応酬がますますエスカレートしていくものと予想される。
2.”軽薄”や”ばかげた”という表現を受けたトランプ前大統領の訴訟行為
皇族や貴族を持たないアメリカ社会において最も敬意をもって迎え入れられ、尊称される存在が大統領であり元大統領たちであろう。
今般、ワシントンポストが取り上げた連邦裁判所による判決文にはトランプ前大統領の訴訟に対し、従来”大統領”の行為にはなかなか使わない、尊称とは真逆の表現が見られた。
問題の訴訟は、トランプが2016年の大統領選における対立候補であったヒラリークリントンとその関係者に対し昨年3月に提起されたもので、「トランプの2016年の大統領選の活動がロシアと共謀していたとのうその情報をクリントンとその関係者が広めるという”悪意の陰謀”を企てた」と主張。
これに対し担当のフロリダ地方裁判所のドナルド・ミドルブルック判事は昨年9月、「本件とその不平内容には本質的な欠陥があり、裁判所が取り上げるものではない」として却下している。
それにもかかわらず、トランプ側は再度訴えを起こしたことに対し、同じ判事は先週、トランプとその弁護士に合わせて937,989.39ドルもの罰金の支払いを命じた。
その46ページに渡る命令文のなかで、前大統領は「政敵への復讐のために裁判所を繰り返し利用する原告」で「事実関係においても法的にも軽薄」な訴訟内容、「口汚い訴訟戦術」「政治目的のために」「法の統制を台無しにし」「無条件にばかげている」といった表現が繰り返されているようである。
3権分立は立法、行政、司法の三者の機関のいずれかに権力が集中すると濫用されるおそれがあるため、三つの権力が互いに抑制し、均衡を保つことによって権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障することを目的としている。
アメリカでは合衆国憲法にその概念がうたわれていて、確かに予算を付けない形で議会が大統領の政策を抑えたり、裁判所が議会の法律や大統領令を違憲判断して止めたりするメカニズムは機能しているように見えるが、元大統領による裁判所の乱用まではさすがに想定していなかったかもしれない。
因みにトランプ氏個人としては彼のビジネスや納税の問題で多くの訴えを受けて被告ともなっている。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 中国の昨年の新車販売台数2.1%増
中国の2022年の新車販売台数は前年対比2.1%増の2,686万4,000台となっている。
増加は2年連続となる。
中国政府の厳しいゼロコロナ政策による移動制限やロックダウン(都市封鎖)の影響が昨年はあったものの、電気自動車(EV)などの売れ行きが好調だった為、増加していると見られている。
l 米台経済貿易連携の動き
台湾と米国の間では、「台湾と米国の21世紀貿易イニシアチブ」に関する第2回交渉が14日から台北で開催された。
2002年に開催された国際機関であるWTOの会合でも行政院経済貿易局の交渉担当者となったメンバーも入り、米国とのハードネゴシエーションに台湾政府は臨んでおり、米台双方は基本的には価値観を共有しながら、妥協点を見出す方向で議論を進めたと報告されている。
特に、世界的なサプライチェーンの再編の中では、半導体分野を筆頭に米台のIntentionに一致するものが多く、今後の具体的な交渉内容をフォローしたい。
l 中国の昨年の輸出7.0%増
中国政府・税関総署は、2022年の貿易統計を発表したが、これによると、昨年の中国全体の輸出額は前年台比7.0%増の約3兆6,000億米ドル、輸入額は同1.1%増の約2兆7,000億米ドルとなっている。
尚、ウクライナ侵攻を行ったロシアとの輸出額、輸入額はいずれも1995年以降で過去最高を記録したとも報告されている。
輸出はウイズコロナに転じた各国の経済活動の活発化によって上半期は順調な伸びとなったが、世界的なインフレに伴う景気停滞の影響などもあり、昨年10月から3カ月連続で、前年同月対比で減少している。
輸入もゼロコロナ政策の影響で消費など内需が低調となったことで、昨年10月から3カ月連続で前年同月対比マイナスとなった。
(2) 韓国/北朝鮮
l 世界の言語学習人気で韓国語が7位に上昇
「Kポップやドラマなど韓国のコンテンツが全世界で愛され、韓国語が人気のある言語になった」と米国のCNNテレビが報じている。
CNNはグローバル言語学習アプリである「デュオリンク」の調査結果として、「韓国語は昨年このアプリで7番目に多く学習された言語になった」と報告されている。
デュオリンクのユーザーは5億人で、英語の学習者が最も多く、次いでスペイン語、フランス語、ドイツ語、日本語、イタリア語の順となり、韓国語は7位で、他に中国語、ロシア語、インド語が10位圏内に入ったとされている。
尚、CNNは、「中国語は使う場面は多いが、国のイメージが低下したため外国語学習の順位で韓国語に抑えられた」と分析している。
l 中国人観光客減でWモール閉店
韓国を代表するファッション・アウトレット・モールの一つとされてきた、ソウル市にある「Wモール」が今年9月に閉店すると見られている。
中国人観光客激減で経営難に陥った為と閉店の理由が説明されている。
Wモールを経営するウォンシンWモールは、「昨年5月に、不動産開発会社であるイェイン開発にアウトレットの持ち株と不動産を売却した。
加山洞にあるアウトレットの営業は今年9月に終了する」と明らかにした。
売却価格は1,600億ウォン程度と推測されている。
1996年に、「ウォンシン・アウトレット」という名称でオープンしたWモールは加山洞をアウトレット団地にした元祖とされており、2007年、既存のビルの隣に10階建ての新しいビルを建て、「Wモール」に名称を変更、現在も200余りの国内外ブランドがテナントで入って営業している韓国を代表するファッション。アウトレット・モールである。
Wモールは、「主な顧客層である中国人観光客が最近大幅に減っている上に、他のプレミアム・アウトレットに客が流れているため経営悪化が続いていた」とコメントしている。
l CD輸出昨年過去最高を記録
K―POP市場の好調が続く中、昨年の韓国のCD輸出額が過去最高を更新したと関税庁は報告している。
関税庁の輸出入貿易統計によると、昨年のCD輸出額は2億3,311万3,000米ドルとなっており、前年対比5.6%増加している。
韓国のCD輸出額は2017年に初めて4,000万米ドルを突破して以降、毎年成長を続け、2020年には1億米ドル、2021年に2億米ドルを超えている。
l 韓国人の高級ブランド支出世界一
世界的な金融機関の一つであるモルガン・スタンレーが「韓国人は高級ブランド品購入に1人当たり年間325米ドルを支出し、世界最高であった」
との見方を示している。
モルガン・スタンレーはその背景を「韓国人たちは社会的地位をアピールする手段として高級ブランド品を購入・使用している為、このように多くの支出をしている」
と分析している。
モルガン・スタンレーによると、韓国人の2022年の高級ブランド品購入費用は合計168億米ドル、これを1人当たりに換算すると325米ドルとなり、圧倒的な世界1位となっていると結論付けた。
米国人は1人当たり280米ドル、多くのブランド買いをしていると一見みられる中国人は、平均してしまうと50米ドルの消費に留まっているとしている。
l 日本の化粧品市場で売り上げを伸ばすクリオ
韓国の主要紙の一つである朝鮮日報は、
「中堅化粧品メーカーであるCLIO(クリオ)は日本にある雑貨店・セレクトショップ・ドラッグストアなどの小売店1万4,000カ所で自社製品を販売している。
同社は日本でカラーコスメ・ブランドのクリオやperipera(ペリペラ)をはじめ、スキンケア製品やヘアケア製品まで計5ブランドを展開している。
クリオの日本売上高は2018年の55億ウォンから2021年は457億ウォンへと3年間で730%も急増した。
クリオの関係者は、新型コロナの流行以降、日本の化粧品市場は縮小しているが、Kビューティー旋風は勢いがある、2023年は流通チャンネルをさらに拡大する計画であると語った。
円安という不利な条件にも拘わらず、韓国の化粧品が日本市場でブーム的な人気を呼んでいる。
韓国貿易協会によると、2022年1月から10月までで韓国は日本に665億4,600万円の化粧品を輸出し、伝統的な化粧品大国であるフランスを抜き、日本の化粧品輸入相手国の1位になった。
フランスは2位で、以下3位米国、4位中国の順である。
韓国貿易協会関係者は、日本は資生堂やSK IIのような現地ブランドの地位が高く、自国の商品を好む傾向が強い為、韓国の化粧品メーカーが参入しにくい市場だとされてきた。
その上、円安でもあるのに、韓国の化粧品が日本で輸入先1位になったのには相当な意味があると話している。
韓国の大手化粧品メーカーであるアモーレパシフィックは日本進出から8年たった2014年、高価格ブランドの販売不振により撤退せざるを得なくなった。
ところが新型コロナウイルス感染症の流行後、動画配信サービスのネットフリックスや動画共有サイトのユーチューブを通じて韓流ブームが巻き起こり、日本のあらゆる世代の消費者たちからKビューティーが改めて注目されていると分析されている」
と報道している。
韓国勢にとって、日本の市場潜入はなかなか厳しいとの認識があるが、この化粧品で市場を切り開き、韓国のブランドイメージを改善、最終的には自動車などの分野でも、韓国ブランドを日本に定着させ、それを土台に更に海外展開を拡大していきたいとする思惑が見え隠れしている。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,228.86(前週対比+11.59)
台湾:1米ドル/30.33ニュー台湾ドル(前週対比+0.05)
日本:1米ドル/129.59円(前週対比+0.79)
中国本土:1米ドル/6.7825人民元(前週対比-0.0464)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,395.26(前週対比+30.16)
台湾(台北加権指数):14,932.93(前週対比+201.29)
日本(日経平均指数):26,553.53(前週対比+103.71)
中国本土(上海B):3,264.814(前週対比+101.363)