1.6月19日を祝日として祝う米国
今週月曜日の6月19日はJuneteenthと呼ばれ、アメリカの黒人奴隷解放を祝う記念日として2021年に国民の休日として法律で定められている。
6月のJuneと19日のnineteenthを組み合わせた造語である。
Black Lives Matter運動のきっかけとなったミネソタ州ミネアポリスでの警官のよるジョージ・フロイド取り調べ中の暴行殺害事件の後に制定された法律に基づく全米の休日である。
1863年にリンカーン大統領が行った奴隷解放宣言の後も、テキサス州のような南部同盟州では黒人の奴隷使用は継続されていたが、南北戦争に勝利した北部諸州の軍がテキサス州ガルベストンに入り、25万人もの黒人奴隷を解放したのが1865年の6月19日であったための6月19日である。
アメリカで国家として奴隷を違憲としたのはその年のもっと後の合衆国憲法修正第13条が批准されてからとなる。
その5年後には黒人に参政権が与えられたが、奴隷解放から100年後のマーチンルーサーキング牧師の公民権運動まで様々な差別が続いてきたことはご承知の通りである。
全米50州のうち、28州でJuneteenthは州の休日として定められている。
奴隷解放がなされたテキサス州では他州にさきがけ1980年に州の休日に認定していた。
これらの州では6月19日の休日をバーベキューなどの飲食のフェスティバルとして祝うが、共通項は赤い飲み物で祝うことにあるという。 これは奴隷として血の汗を流してきたことに由来するとワシントンポストの記事には記されている。
連邦議会民主党では折々に黒人を奴隷としてきたことへの損害賠償をその子孫家族に行うべきという議論が出てきている。
有権者の約13%を占める黒人にとってのJuneteenthの休日化の次の政治テーマがそれなのかもしれない。
2.生成AIがもたらす新たな世界を正しく理解しようと努力する連邦議員
今週、バイデン大統領の要請を受け、米上院ではAIを規制する法制化に向けた動きが始まった。
2018年の時点では、米下院でAIの政策勉強会に参加していた議員の数はわずか18名から20名程度と低調であったという。
それがChatGPTの出現で上下両院の生成AIに関する関心が一気に高まり、そこに産業側が自らに有利な形で規制がつくられるよう勉強会の講師を務めつつロビーイングを行っている様子をワシントンポストが伝えている。
EUでは早々にAIを規制する法制がつくられており、米議会としても遅れをとらないためにもまずは生成AIの仕組みや潜在的リスクへの理解が求められている。
マイクロソフトのブラッド・スミス社長やテスラのイーロン・マスクCEOも主要な議員への“講義”を行っている。
グーグルの前のCEOのエリック・シュミットは、その技術をもって何が可能かを理解できるのは政府ではなく、産業界であることから産業界が規制をつくるべきと主張している。
一方、ChatGPTをつくったOpenAIのサム・アルトマンは議員との会合を重ね、議場でのスピーチの草稿を書かせる実演なども行っている。
また前出のマイクロソフトのスミス社長も議員に対するレクチャーを行いつつ、彼が考えるAI規制の青写真を説明している。
それとは別に、ケビン・マッカーシー下院議長(共和党、カリフォルニア州選出)など上下両院の指導者はマサチューセッツ工科大学の教授連とAIに関する学術的会合も行ってきている。
AIの仕組みの理解はもとより、偏見の増長などの負の可能性を知る目的である。
また、マーク・ワーナー上院議員(民主党、バージニア州選出)のように、ベンチャーキャピタリストであった経歴を生かし、AIのトップクラスのリサーチャーや業界専門家を招いて上院メンバーにレクチャーさせたりもしている。 議員の中にもコンピュータサイエンスの学位を持つ人間が何人かいてAIについての警鐘を同僚に対し鳴らしてきていたが、2016年に初めてAIの公聴会を開き、2017年に下院でAI政策勉強会が、2019年に上院で同様の勉強会が設立された程度であった。 それが生成AIの出現で生成AIはすべての立法に関連するとの認識を持つに至った。
かつて議会のシンクタンクとしてOffice of Technology Assessmentという組織があったが、90年代に予算不足で閉鎖、これを復活させようとの動きも出ている。
ただ、GAO(会計検査院)やCRS(議会調査局)といった既存のリソースで十分検討はできるとの見方もある。
議会とテックカンパニーのやりとりではフェイスブックのザッカバーグ社長やグーグルのトップが公聴会などで厳しく追及されたイメージがあるが、現状、アルトマンCEOは夕食会などを含め今のところ議会のメンバーとは仲良しクラブのように付き合っているという。
古い話だが、筆者が90年代前半にワシントンDCに駐在した際には首都ワシントンはソ連崩壊、冷戦勝利を祝う高揚感とともに、冷戦後の新たな時代をどう予想し、米国としてどう立ち向かうべきか議会、政府、シンクタンク、学界、メディアの人々が熱心に勉強し、議論していた。
今回の生成AIの出現は世界が新たなパラダイムに移りかねないという認識の下、連邦議員自らが率先して学ぼうとしている姿勢に冷戦崩壊直後の雰囲気を思い出す。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 日米台間のドローン情報共有体制構築の動き
英国のフィナンシャル・タイムズは、複数の関係筋の話として、「日本と米国、台湾が無人偵察機で収集したデータの即時共有を検討している」との観測報道を流している。
そして、これは、「米国による台湾有事に備えた協力強化の取り組み」の一環と見られているとの見方を示している。
米国は、海洋監視用の無人機MQ9B「シーガーディアン」4機を2025年以降、台湾に供与する予定で、インド太平洋地域の米軍や自衛隊が使用するシステムに同機を統合することを認める方針と見られ、日米台はこれにより、無人機が収集する情報を同時に観測出来るようになる。
l 中国本土での造船を避けつつある台湾
中台間の緊張が高まり、台湾海峡両岸に不穏な雰囲気が見られる中、台湾の海運会社や船主は、建造を韓国や日本の造船会社に任せることを好み、中国本土の造船所での建造を回避する動きが出ていると見られ始めている。
例えば。最近では韓国の三星重工業が台湾のエバーグリーン・シッピング・コンテナ船建造の候補の一つになっていると見られている。
そして、日本のジャパン・マリン・ユナイテッド(JMU)も台湾からの受注の可能性があるとも見られている。
(2) 韓国/北朝鮮
l デジタル貿易協定加盟に名乗りを上げる韓国
韓国政府は世界初のデジタル貿易協定であるデジタル貿易協定(DEPA)に4番目の国家として合流するとしている。
グローバルデジタル通商の競争力が強化し、Kコンテンツ国境も拡張されていくことを目的とした動きと見られている。
韓国政府・産業通商資源部によると、アン・ドクグン通商交渉本部長は、フランス・パリで開かれた経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会を契機に、DEPA3カ国の通商長官・次官と会合して加盟交渉の実質妥結を宣言している。
l 子供を持つことは負担? ― ソウル市民意識調査
ソウル市民の10人に8人は、「子どもを経済的に負担と感じている」という調査結果が発表された。
これは調査対象の世界主要15都市で最多となっている。
反対に、「子どもの成長を見るのは人生最大の喜びである」という回答は68.1%に留まっている。
子どもを「喜び」よりも「負担」と考える回答が多い都市は、ソウルと東京(「喜び」60.1%、「負担」65.0%)だけとなっている。
その差はソウルの方が大きく、韓国の合計特殊出生率が世界最低に下がった要因とも分析されている。
ソウル市民の「暮らしの満足度」も15都市で最下位となっている。
これは、「ソウル大学アジア研究所」と「韓国リサーチ」が、「アジア人の家族と幸せ」というテーマで、ソウル、ニューヨーク、北京、東京、パリ、ハノイなど15の大都市で暮らす満18~59歳の市民1万500人(各都市700人)を対象に、昨年末実施したアンケート調査の結果である。
「子どもは親にとって経済的に負担だと思うか」という質問にソウル市民の81.0%が「そう思う」と答え、これは14位のリヤド(サウジアラビア)の66.3%より14.7ポイント高かった。
その一方で、ジャカルタ(インドネシア)は「負担」という回答が24.4%に留まっている。
「子どもの成長を見るのは人生最大の喜びだ」という回答はアンカラ(トルコ)とハノイ(ベトナム)で93%を超えた。
昨年の韓国の合計特殊出生率は0.78、ソウルは0.59と全国最下位となった。
また、「現在の生活に満足している」と答えた割合も、ソウルは42.3%で15都市中最下位となり、これは1位の北京(中国本土、84.9%)や2位のニューデリー(インド、80.3%)の半分程度となっている。
l ポーランド向け韓国製戦闘機FA50GFJ出荷
最近、ポーランドの国防関係者らが韓国を訪れて、韓国航空宇宙産業(KAI)のポーランド輸出型軽攻撃機「FA50GF」1号機の出庫式に出席している。
この席にいたポーランド空軍司令官はポーランドのメディアとのインタビューで、FA50GFの今後の運用計画などを明かした。
これによると、同国空軍のノバク司令官は、「KAIのFA50は、訓練機能も備えた戦闘機である」と評価、更に、「通常の戦闘機は1回の稼働に多くの費用が掛かり、費用の安い練習機を別途保有するケースが多いが、FA50は維持費が安くて練習機としても使える」との見方も示し、高く評価している。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,273.76(前週対比+14.65)
台湾:1米ドル/30.73ニュー台湾ドル(前週対比-0.02)
日本:1米ドル/141.02円(前週対比-1.70)
中国本土:1米ドル/7.1210人民元(前週対比+0.0063)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,625.79(前週対比+15.37)
台湾(台北加権指数):17,288.91(前週対比+402.51)
日本(日経平均指数):32,265.17(前週対比+740.95)
中国本土(上海B):3,273.334(前週対比+41.928)
4.TAC企業経営アドバイザーセミナーに登壇します
7月8日(土)午前11時から掲題のセミナーの講師役として登壇します。
タイトルは『多様性から事業成長を促す!戦略的な外国人材活用のススメ』です。
オンラインで聴講は無料です。 土曜日ですがお時間がございましたら是非ご笑覧ください。
申込は以下のリンクからお願いします。
https://www.tac-school.co.jp/kouza_kigyou/webinar/20230708.html
5.寺島実郎氏メディア出演情報
寺島文庫から以下の情報を入手しましたので共有いたします。
6月18日放送のMXテレビ「寺島実郎の世界を知る力」第33回放送につきまして、
YouTubeでの見逃し配信のURLをご案内致します。
●TOKYO MX「寺島実郎の世界を知る力」(2023年6月18日放送)
【第33回放送】
「株高・円安の本質と大国インドの謎解き」
https://www.youtube.com/watch?v=MTxcvgyRzic&list=PLkZ0Cdjz3KkhlIA30hZIT5Qnevsu0DBhY&index=1
また、今週末の「対談篇 時代との対話」(第27回放送・2023年6月25日(日)午前11時~)は、
千葉大学国際高等研究基幹 特任教授・学長特別補佐の藤原帰一氏をゲストに迎え、
侵攻開始からまもなく500日を迎えるウクライナ戦争を入口に、
歴史時間軸の中でのロシア・アメリカ・中国の国内や国際情勢の変化、
核なき世界に向けた具体的な行動を含め、今後日本が取るべき立ち位置等について、
議論を深く掘り下げます。ぜひご視聴頂ければと存じます。
《メディア出演情報(追加)》
■2023/7/9(日)08:00~
TBS系列「サンデーモーニング」
■2023/7/23(日)08:00~
TBS系列「サンデーモーニング」
さらに、全国約500店舗の「快活CLUB」で視聴頂けます
寺島文庫オリジナル動画及び寺島文庫YouTubeチャンネルに関して、お知らせ致します。
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◆◇『学びの再出発』◇◆
~寺島文庫のオリジナル動画が
全国約500店舗の「快活CLUB」でご視聴いただけます~
【月1回更新】 6月分は23日(金)より配信予定!
今回は「AIは人間を超えるのか」をテーマに、
コンピューターとインターネットの進化の歴史を振り返りながら、
人間の「認識」と「意識」の違いに焦点を当て、
生成AI(Chat GPT)が超えられない人間の能力のポテンシャルについて、
寺島が語ります。
また、「今月の本棚」では、
株式会社新潮社取締役・伊藤幸人氏との対談(後編)をお送り致します。
今回は『2050年のメディア』(著:下山進)を取りあげ、
プラットフォーマーの台頭に苦闘する既存メディアの未来について議論します。
また、寺島の『大中華圏』『ユニオンジャックの矢』『ダビデの星を見つめて』を元に、
寺島のネットワーク型世界観について語ります。
ぜひ快活クラブの店舗にてご視聴頂けましたらと存じます。
・詳細はこちら
https://www.terashima-bunko.com/minerva/kaikatsu-manabi.html
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