1.女性の中絶の権利に関するフランスの憲法改正と米国政治
フランスが女性に中絶の裁量を認める憲法改正に向けて動いている様子をワシントンポストが紹介している。
この動きは米国の連邦最高裁が昨年6月にそれまでの女性の中絶の権利を認める判断を覆し、それを制限する判断を示したことに端を発する。
フランスでも将来の裁判所の判断で女性の権利が奪われるリスクを意識し、憲法という最高法で確実にしておくという意図である。
フランスでは妊娠14週間までは理由を問わず中絶は合法的に認められ、保険も適用されているが、米国最高裁の判断の直後に女性の活動家による議会への憲法改正の働きかけが始まったという。
というのも、2022年の判決からさかのぼること4年前の2018年の時点でトランプ前大統領は中間選挙のキャンペーンにおいて中絶の権利を覆す戦略を持っていたとみられているため。
フランスで行われた世論調査では回答者の8割が女性の中絶の権利を支持し、その権利を憲法にうたうことを支持している。
フランスでの憲法改正の手続きは、まず文言を行政府で整えたうえで、議会に諮りまずは単なるマジョリティで本投票に向かうかどうか判断される。
本投票はベルサイユ宮殿で開催される特別議会で行われ、議会両院議員総数の5分の3の合意を必要とする。
現状、文言において、女性の「権利」か「選択の自由」か、で議論が分かれ、マカロン政権は下院よりも保守系議員の多い上院に気遣い、「選択の自由」で議会に諮っている。
女性活動家は「権利」と表現することで政府による中絶施術へのアクセスを提供する義務を課すことを求めている。
アメリカの憲法改正はフランスよりもさらに困難がつきまとう。
というのも連邦議会で合意された後に、4分の3以上の州の同意を必要とするため。現状50州なので38州もの同意を要する。
一番直近で改正された合衆国憲法条項は国政選挙前に自らの給与を上げてはいけないという内容で議会は200年以上前に承認しているにもかかわらず、最終的批准に必要な数の州の合意が得られたのは1992年までかかっている。
米国の憲法学者によれば、昨年の連邦最高裁の中絶に関する判断は米国政治に爆弾を投下したようなもので、女性の権利を求める有権者がかつてないほどに投票所に向かうこととなったという。
そしてこのフランスの憲法改正への動きはそうした人々を刺激し、アメリカ自身の憲法改正に向かわせる政治パワーを生み出す可能性があると指摘する。
これがどこまで来年の選挙に影響を与えるかは要注目といえる。
2.米国経済は踊り場か、それとも堅調か?
10月の新規雇用者数は15万人と2020年以降では下から2番目に低い数値を示した。
同様に失業率は0.5ポイント上昇し3.9%となった。
ただ、その背景に自動車のビッグスリーの労働者のストライキに代表される全米でのストライキの影響があるとエコノミストは見ており、その多くのストライキが終結しているなかでは経済も労働市場も引き続き堅調であるとの判断にある。
実際、賃上げ率は4.1%の時給34ドルで、インフレ率(9月で3.7%)を上回り続けている。
失業率の上昇はいわゆるレイオフなどの失職者増の影響よりも新たな就労希望者がより多く労働市場に参入したためという。
株式市場は労働市場の過熱が収まってきたと判断してか、来年には連銀が金利を下げる動きを示すと期待し、株価が大幅に上昇した。
連銀のパウエル議長はこの労働市場を「歴史的には珍しい歓迎すべき状況」と表現、当面金利に手を付けないとした。
バイデン大統領は自らの経済政策が功を奏し、インフレ抑制には大幅な失業率増が必要と言われていた予想を覆したと自賛している。
先週のデータではアメリカの生産性の伸びは過去3年間で最高値に達し、賃上げが単に労働者不足に基づくだけではないことを示している。
インフレの落ち着きとともに消費者の財布のひもも緩み、第三四半期のGDPは年率で4.9%とかつてない伸びを示した。
ということで表面的な労働市場の数値は過熱から減速を示したものの、その実態を見るとか「堅調」どころか消費を中心にしっかり「成長中」の米国経済を物語っているといえよう。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 台湾―エストニア交流
台湾の今台湾海峡情勢の緊張が高まる中、台湾のウー外相は、外交政策セミナーに出席する為、バルト三国のエストニアを訪問する予定となっている。
タリンで予定されているこのセミナーは、エストニアのシンクタンクである国際防衛安全保障センターが主催する。
ウー外相は基調講演を行い、「世界的緊張が高まる時代の欧州と台湾」と題する討論に参加する予定となっている。
更に、エストニア政府・外務省は、来週の会議に先立ち、「台湾の非外交的な経済・文化代表の設立を受け入れる用意がある」と述べ、また、
「台湾とのこうした関係強化は一つの中国政策と矛盾しない」ともコメントしている。
l モンゴルに上海機構への加盟を促す中国
李強首相は上海協力機構(SCO)の下でモンゴルとの協力を強化すると述べており、中国本土とロシアが主導する地域組織であるSCOへの加盟を改めてモンゴルに促している。
ビシュケクで開催されたSCO会議の合間にモンゴルのオユーンエルデネ首相に対して、このような中国本土の意向が伝えられたと見られている。
モンゴルは2004年以降、SCOには加盟せず、オブザーバーとしての立場を選んでいるがどのような反応をしてくるのか、フォローしたい。
l 来年過去最高の半導体生産を予想する台湾
台湾の産業科学技術系の政府系研究院は、「来年の半導体産業は回復し、世界の半導体生産額は年率12.6%増の5,809億米ルに達する。
また、台湾の半導体生産額は同13.7%増の4兆2,900億ニュー台湾ドルに達し、過去最高を更新するであろう」と予想している。
l 鴻海会長の出馬に揺さぶりをかける中国
来年1月に予定されている台湾の総統選挙に対する関心は世界的にも高い。
こうした中、中国本土政府が台湾の大手電機メーカーである鴻海の在中企業である富士康に対して、税務調査を開始したというニュースが中国本土では流れている。
鴻海創業者で台湾の時期総統選の立候補に必要な署名集めを続けている郭台メイ(テリー・ゴウ)元会長への揺さぶりという見方も広がり始めている。
中国本土としては、民進党と共に、テリー・ゴウ氏が総統になった場合の、中国本土にとってのリスクも意識していると見られることからの観測である。
(2) 韓国/北朝鮮
l ロボット掃除機特許出願で世界トップとなった韓国
韓国国内では、「全世界では、ロボット掃除機特許出願が急増している中、韓国の出願が全体の3分の1を占め、技術開発を主導している」との見方が広がっている。
韓国特許庁が、韓国・米国・中国本土・欧州連合(EU)・日本など主要国で出願されたロボット掃除機特許を分析した結果、2011年の53件から年平均36.9%で増加し続け、2020年には894件に達したことが分かったとしている。
特に、2016年から2020年までの年平均増加率は51.7%となっており、出願の増加ペースが急速に上がっていると見られている。
そして、出願人の国籍は韓国が35.8%で最も多く、次いで中国35.7%、米国12.8%、日本4.5%、ドイツ3.3%の順となっていると報告している。
この10年間の年平均増加率は、中国が91.9%で最も高かったが、最近5年間の年平均増加率は韓国が67.1%で中国を上回っている。
主な特許出願人はLG電子が26.6%で最も多く、米iRobot(アイロボット)が5.4%、三星電子が5.2%、スウェーデンのエレクトロラックスが3%となっているとしている。
このほか、韓国のインターネットサービス大手のネイバーと韓国電子通信研究院もそれぞれ0.3%の特許占有率を記録している。
ロボット掃除機分野の特許に於いて、10件中9件は大企業の出願であり、商用化された製品に適用される技術である為、企業が技術開発を主導する傾向が顕著であるとも分析されている。
l 大韓航空、アシアナ航空合併手続き前進
大韓航空・アシアナ航空合併問題に動きが見られ、約3年間にわたる大韓航空とアシアナ航空の合併手続きが最大の難関を越えたと見られている。
「アシアナ航空の貨物事業を分離・売却せよ」という欧州連合(EU)側の要求をアシアナが受け入れ、大韓航空がEU側の企業結合審査手続きを通過させることが確実視されていることによる見方である。
アシアナ航空理事会(取締役会)は11月2日、大韓航空がアシアナ航空を買収・合併した後、アシアナ航空貨物事業を分離・売却するという大韓航空の是正措置案に同意する案件を可決したのである。
アシアナ取締役陣5人は先月30日に行われた取締役会でこれを協議したものの、結論を出せなかったが、今月2日に取締役会を再び開いて表決した結果、5人中3人の賛成で承認された。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,308.23(前週対比+48.26)
台湾:1米ドル/32.10ニュー台湾ドル(前週対比+0.35)
日本:1米ドル/149.37(前週対比+0.30)
中国本土:1米ドル/7.3005人民元(前週対比+0.0154)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,368.34(前週対比+65.53)
台湾(台北加権指数):16,507.65(前週対比+373.04)
日本(日経平均指数):31,949.89(前週対比+958.20)
中国本土(上海B):3,030.798(前週対比+13.014)
4.中東フリーランサー報告24
三井物産戦略研究所の研究員の大橋誠さんから掲題のレポートをいただきました。 大橋さんのメッセージとともにお届けします。
少し間が空いてしまいましたが、中東フリーランサー報告24をお送りします。実はオイルショック50周年と言うことで、その原因となった第四次中東戦争と、その主役であるサダト大統領の政略についてご紹介し、温故知新の記事にしようと思っていた矢先にハマスのイスラエル奇襲が発生し、すっかり書き直しとなってしまいました。
ガザの騒ぎはまだ進行中ですので、メディア報道に譲りますが、日々子供の悲惨な姿を映し、今日は何人殺されたと言う報道に集中するのは、正直印象操作の観をぬぐえません。今日は老人が何人殺されたと言うニュースを聞きません。中東の戦争において中立と言う身勝手は許されないと言うのが私の持論ですが、どちらの側に立つにしても、我々は悲惨の全容を知り尽くしている訳ではないことは肝に銘じるべきでしょう。
ガザ戦争のお陰で、ウクライナ戦争の影がすっかり薄くなってしまいましたが、だからこれが誰それの陰謀の結果と言うのは如何かと思います。
と言うことで、オンゴーイングの話なので、時系列的に前後してしまった部分もあろうかと思いますが、50年前の第四次中東戦争との比較においての考察をお送りします。異論もあろうかと思いますが、皆様の考察に供する次第です。ご意見を頂ければ幸甚です。