1.なぜ米国政治の分断は悪化しているのか
地政学リスクを分析するユーラシアグループが出した今年の10大リスクのトップに「米国の分断」を掲げていたが、ワシントンポストがその分断の背景を科学的に解き明かそうとする記事を出していた。
まず分断を象徴する状況として、議論の対立や討論といった論理的なものでなく、感情のぶつかり合いによる囲い込み、一種の種族化(特にトランプ族)がある。
学者はこの囲い込みを“affective polarization”、トランプの岩盤支持層を”Trump tribe“と名付けている。
理屈抜きの感覚で好きなものを疑わず、固着化していく現象である。
嫌いなものは嫌悪化し、憎しみに変わり、妥協や議論の余地がなくなっていく。
「我々仲間」と「あいつら」、「勝ち組」か「負け組か」といった極端な表現を用いたほうが支持を固めやすくなっている。
マッカーシー前下院議長の更迭で見られたように超党派の歩み寄りを見せようとするリーダーは党内や支持層から処罰され排除されかねない。
今の民主、共和の両党が代弁する価値観が米国内での人種、宗教、文化のそれぞれの価値観の違いとマッチしているところも分断化を加速している。
学者の解説では、元々動物である人間が本能的に持つ集団・社会帰属欲がこの分断の燃料として控えているという。
そして米国の政治システムが多数派工作や連立内閣を必要とする議会制民主主義ではなく、二大政党制に基づく大統領制を引いているところも分断に陥りやすい構図にあるという。
さらには今世紀に入ってのSNSを中心とした情報発信、共有のしやすさと偽情報の拡散が分断の火種になっているのではないかと分析する。
驚くのは相手の党に「悪魔」とか「脅威」といった表現を用いたり、他党の支持層は「畜生のように振舞う」と感じている人がそれぞれの支持層に30%もいること。
分断は家族形成にも影響し、夫婦間で支持政党が異なる割合はかつては35%あったが、今は15%しかいないという。
ニューハンプシャー州の党員集会に参加した40代の共和党支持者は「我々は間違いなく南北戦争(内戦)に向かっている」と真顔で語る。
政治学者によればアメリカの政治分断というのは①他人化(人々を自分とは異なるものとみなす心理)、②嫌悪の感情を引き起こす、③脅威に対し多くの教訓を述べるという3つの手法がカギという。
今や民主・共和両党の政治家は国民の懸念点をそうした手法に紐つけて対立構図に繋げているわけだが、この手法に最も長けているのがトランプであるということが政治学者の見立てである。
その違いを端的に表現するには、通常の政治家が有権者に対し「心配しろ!」がメッセージであるのに対し、トランプは「怒れ!」というメッセージをぶつけているという。
人間が持つ熱量の素になる燃料に適切な火をつければモチベーションとなり、推進力となるが、一気に火をつけて激怒となれば周辺を延焼する大火災となりかねない。
自らを“熱狂(信奉)的に”信奉する仲間を集めるための“火”の扱いに誰よりも長けているトランプ前大統領だが、その火が南北戦争のような国の分断に至る大火災に至らないことを祈るばかりである。
2.バイデンはどのように戦うのか
今年の大統領選に向けたバイデン・民主党陣営の状況をワシントンポストが報じた。
有権者への1つの訴求の目玉として年金基金拡充のため年収40万ドル以上の富裕層や企業に増税を行う方針が内部情報としてリークされている。
下院のマジョリティを共和党が握る状況での増税法案の議会通過は難しいものの、共和党との政策の違い、争点を明らかにする狙いがある。
ただ、大統領の一般教書演説(State of the Union)と、それに伴う新年度予算教書が3月に予定されていることからキャンペーンメッセージが明らかになるのはそれ以降とみられている。
今の段階でホワイトハウスとキャンペーンスタッフの間で議論されているのが、メッセージの中に一期目の実績をどこまで反映し、二期目以降の目標をどこまでうたうか。
アメリカのマクロ経済自体は好調で、GDP成長率の高さ、失業率の低さ、インフレ率よりも高い賃金上昇率など、どの指標を取っても悪くない。
ところが有権者の肌感覚は逆で、今月10日から12日にかけて行われたCBSニュースとYouGovの共同世論調査では約半分の回答者が、バイデンが再選されたら自分たちの暮らしは悪くなると回答、トランプならば良くなると回答している。
その原因としてバイデンのインフレに対する姿勢があったという。
コロナ禍でインフレが顕著になった際に、大統領はそれを一過性のものととらえ、すぐに収まると公にも語っていたが、実際は長く続き、ガソリン価格や食料価格高騰など市民の日々の生活に大きなダメージを与えたことがこのような世論調査に現れているとみられる。
従い、バイデンは一期目の成果を強調するよりも二期目で有権者の暮らしをどう具体的に良くしていくのか示す政策が求められるという問題意識がある。
この点で候補に挙がっているのが冒頭の富裕層と企業の増税を通じた年金の拡充、中間・低所得層への還元があるが、それに加え、処方薬価の上限設定と企業の不透明な手数料の取り締まり(銀行の当座貸越費、明細の無いエアラインの各種チャージ、車のディーラーの利益上乗せ上限など)のための政策を準備中という。
ただ、このような正攻法の戦いで、トランプが着火して回る「火」の熱に打ち勝つことができるのか、やはりバイデン陣営としても無党派層をに自らの「火」をつけて熱量を高めるメッセージが必要なのではないであろうか。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 頼新総統に中台交流再開を期待する台湾財界
台湾の全国中小企業連合会の陳万来副主席は、新総統に対して、「最大の期待は中台両岸対話を再開し、通常の中台交流を再開することである。
そうでなければ台湾経済、特に輸出は大きな不確実性を抱える懸念が生まれる」との見解を示した。
l TSMC純利益減少
台湾積体電路製造TSMCは、2023年第4四半期の財務状況を発表したが、連結売上高は約6,255億3,000万ニュー台湾ドルとなり、税引き後純利益は約2,387億1,000万ニュー台湾ドルとなったと発表している。
通期の税引き後利益は8,385億ニュー台湾ドルとなっている。
世界的な景気低迷の中、自動車や携帯電話、サーバー向け半導体需要が打撃を受けて、純利益は19%減少している。
l 重要インフラの中国依存度削減を目指すEU
欧州連合(EU)の欧州議会外務委員会は、EUの重要インフラについて、中国からの安全保障や防衛上の脅威を纏めた提言書を採択している。
中国への高い依存度を下げ、リスクを再確認して、加盟国間でばらつきがある監視体制などの画一化を促す狙いがあるとも見られている。
(2) 韓国/北朝鮮
l キムチチゲ等外食価格の値上がり
韓国の代表的な外食メニューの一つであるキムチチゲ定食の価格が、ソウルで初めて8,000ウォン台に値上がりしている。
ソウルのチャジャン麺(韓国式ジャージャー麺)1杯の価格は、昨年10月に初めて7,000ウォンを上回った。
韓国消費者院の価格情報総合ポータルサイトによると、代表的な外食メニュー八つのうち昨年1年間の値上げ率が最も大きかったメニューはチャジャン麺で、値上げ額が最も大きかったメニューは参鶏湯(サムゲタン、鶏肉入りスープ料理)だとなっている。
昨年12月には、ソウルの外食メニュー八つのうちキムチチゲ定食、サムギョプサル、キンパップ(韓国のり巻き)の3品目の価格が前月対比で上昇し、キムチチゲ定食は昨年11月の7,923ウォンから77ウォン値上がりし、8,000ウォンになっている。
一般庶民の外食メニューの値上げは、韓国庶民の不安、そして不満拡大に直結する可能性はこれまでの傾向からすると高い。
l 世界第5位の軍事力となった韓国
韓国国内では、2024年版の世界軍事力ランキングで韓国は昨年よりも1ランク順位が上がり世界5位となったということに高い関心が寄せられている。
即ち、世界各国の軍事力を分析している米国のグローバル・ファイヤーパワー(GFP)のデータによると、ランキング1位は米国で、以下僅かな差で、ウクライナ紛争で軍事力低下中とも見られる今も2位はロシアとなっており、3位その米露に迫る中国となっている。
そして、今回、当該調査の調査対象となった145カ国のうち韓国はインドに次いで5位となったということが注目されているのである。
尚、これに対して北朝鮮は36位となり、韓国との格差は更に広がり、また、昨年5位だった英国は6位で韓国と順位が入れ替わり、隣国・日本は7位、更に8位トルコ、9位パキスタン、10位イタリアまでが上位10カ国に入ったと報じられているのである。
ドイツ、フランスの名前はトップ10には見られなかった。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,333.77(前週対比-23.58)
台湾:1米ドル/31.57ニュー台湾ドル(前週対比-0.45)
日本:1米ドル/148.39(前週対比-3.86)
中国本土:1米ドル/7.1905人民元(前週対比-0.0277)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,472.74(前週対比-52.31)
台湾(台北加権指数):17,681.52(前週対比+168.69)
日本(日経平均指数):35,963.27(前週対比+386.16)
中国本土(上海B):2,832.279(前週対比-49.707)