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日賑グローバルニュースレター第337号

1.右傾化する最高裁

 

現在の最高裁判事の構成は、トランプ前大統領が大統領在任期間中に3名もの保守系判事を任命したことで保守系6名、革新系3名となっている。 

その影響は2年前の中絶違憲判断や、政府による銃規制の否認、その他さまざまな政府の規制権限の否認などの判断に現れてきた。 

大統領選関連では、202116日の議会襲撃事件でのトランプ前大統領の関与を根拠としてコロラド州の最高裁がトランプを同州の予備選や本選への立候補を認めない判断をしたのに対し、最高裁ではこの州の判断を覆し、トランプの立候補を認めている

そして先週から今週にかけトランプに関わる訴訟手続き判断でトランプに有利な判断を示した。 

即ち2020年の大統領選結果に基づく次期政権への権限移行を覆そうとする前大統領の行為に対し、被告のトランプが主張する“免責”を認め、下級審に差し戻す判断を63の保守系判事中心で下した

その結果、不倫の口止め料を不正に処理したとされる事件の裁判で、トランプ側が有罪評決を覆す手続きを始める考えを明らかにしたことから今月11日に予定されていた量刑の言い渡しを9月に延期となった。

昨年10月にスタートした現最高裁の年度は通常6月末で終了するが、この期は7月まで延長して“トランプ判断”を行った

当該期、最高裁は計49件の最終判断を下し、うち27件は全判事一致、22件は63で多数決判断となっている。

この22件のうち、11件は保守系と革新系の63あった。 

当該期の判断の中の大きな保守化の動きは以下の通り。 

 

  1. 議会制定法にあいまいな点があった場合、専門家の意見等をもとに行政による解釈・判断に譲るというのが過去40年の最高裁の判断であったが、当該期最高裁はこれを覆し、行政がその法律で認められた権限内で行動したかどうかは司法が都度判断するとの判断を下した
  2. 証券取引の不法行為の嫌疑を受けた人間は従来証券取引委員会の取り締まりを受けず、連邦裁判所の陪審員の判断を受けられるという判断で、同委員会の取り締まり権限を事実上はく奪した。
  3. 企業が連邦政府の規制に不服申請できる期間の延伸を認める判断
  4. 環境庁による大気汚染規制に関する司法手続き期間中の規制執行を阻止する判断。  

 

一方、中絶問題に関しては当該期間中2件、バイデン政権の主張を認めてはいる。 

即ち、FDAで認めている中絶用のピルへのアクセスを禁止すべきとの中絶反対派による訴えを退け、どのように厳しい中絶禁止の州法を持っている州の医療機関においても特定の医療ニーズにおいては中絶を認めるべきとの連邦法にチャレンジしたアイダホ州の訴えを退けた。 

ただ、これらは一時的な判断とみられ、今後どのように進展するかは予断を許さないという。 

やはり最高裁判事の内訳が63ではリベラルサイドの分が悪いことは明らかといえよう。

 

2. バイデン下ろしのゆくえ

 

2016年のトランプvsヒラリー・クリントンの対決は無党派層にとって不人気投票と揶揄されたが、今年の大統領選が前回同様バイデンvsトランプであるならば、そのスイングボーターにとって、どちらを避けるべきかという究極の排除選択といわれてきた。 

とはいえ、排除する方を選ぶということはすなわち残りの候補に投票することになるわけだが、それは大前提としてその候補が次の4年間大統領の責務を担えることが前提である。

この点で、バイデン大統領は高齢に伴う能力低下が最大のリスクであり、627日のTV討論会で、そのパフォーマンスが注目されていた。

ところがその声はかすれ、弱弱しく覇気がなく、言葉に詰まり、タイムリーな応戦ができないというまさに高齢のリスクを現実化させたことから世論やメディアはもとより身内の民主党内からもバイデン下ろしの声が上がっている。

特に激戦州の中でもペンシルバニアやミシガン、アリゾナで今年改選を迎える民主党上院議員や知事はバイデンのパフォーマンスの悪さの影響を受ける可能性があることから気が気でない。

ワシントンポストやCNNなど各種報道から、バイデン大統領と陣営は今週各所で選挙演説や資金提供者等との会合を通じ信頼感を取り戻そうと動いているが、このバイデン下ろしの声が独立記念日のロングウィークエンドを経て収まるのか勢いづくのかを見極めようとしているという。 

確かにディベート翌日のノースカロライナでの演説では、自分が高齢であることは認めつつも「この(大統領という)仕事を全うする方法をわかっている」と力強く宣言し、元気を取り戻してはいた

そしてこの力強いスピーチの様子を背景として202116日の議会襲撃事件とトランプの関係をリマインドするTV広告を矢継ぎ早に打っている。 

トランプ陣営はディベートでのバイデンの様子を「バイデンの大統領としての弱さ、失敗そして不誠実さの目に見えた証拠」として今後のTV広告やキャンペーンの中心に据えるとソーシャルメディアに発表している。

選挙資金については現役大統領の強みでバイデン陣営の方がトランプ陣営を大きく上回っている

バイデン陣営にとっては、ディベート前には、「こんな候補者(トランプ)で良いのか」というyes/noの選択の疑問を視聴者に持たせるのが作戦であったものが、「こんな高齢者で職責が務まるか」という自らへの不信感として跳ね返っている現状を打開できるのか、それともバイデン下ろしの勢いが一層高まるのか独立記念日ウィーク明けの来週の米国の様子が注目される。

因みに、これまでの候補者の最高齢は1996年の共和党候補のボブ・ドールの73歳であった。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国の月探査と政治

米国のアポロ計画の後、月を巡る探査は長い空白期が続いていたが、2019年に中国の「じょうが4号」が月の裏側に着陸すると、2カ月後、米国が人類を再び月に送る「アルテミス計画」を発表し、再び世界主要各国が科学技術力を誇り、月の開発に関心を示し始めている。

「五星紅旗が月の裏側で広げられた。月の裏側で国旗を掲げるのは初めてのことである」と試料を採取した「じょうが6号」が月面を離れた日に、中国国営中央テレビは自国の快挙を自画自賛した。

打ち上げから月面着陸、地球への帰還に至るまでの54日間、その動向は中国で連日報じられていた。

カメラが捉えた月面の映像を壮大な音楽にのせて繰り返し流すなど、国威発揚の意図を隠そうとはしなかったと外信はこの様子を伝えている。

6月11日には、将来の有人月探査などを担う宇宙飛行士候補10人も発表された。

その目玉は、香港とマカオ出身の科学技術者が初めて選ばれたことであり、香港の李家超行政長官はこれに対して、「香港全体が誇りに思う朗報であり、非常に心が奮い立たされる」

と中央政府への感謝を述べ、香港と中国の一体感を内外に示す政治的発言も行った。

 

l  対中けん制を強める米海兵隊

中国の南シナ海、東シナ海、南太平洋、そしてインド洋に対する海洋進出のスピードは速まっており、経済的な影響力の拡大のみならず、軍事的な影響力の拡大も目指して、中国の動きは加速化している。

こうした状況に対して、米国の警戒は強まっており、今般、米国海兵隊司令官は、数年後に海兵沿岸連隊をグアムに派遣する計画であるとコメントしている。

即ち、中国がミサイル攻撃の可能性を高めていることに加え、台湾や尖閣、沖縄、フィリピンなどに上陸作戦を展開してくるのではないかとの事態も想定しての動きとも言える。

こうしたエリック・スミス将軍の発言は、ワシントンで記者団に対して行われた会見で、なされたものである。

そして、海兵隊は、この海兵沿岸連隊を海兵隊再編の柱と見做してもいる。

中国軍のミサイル能力の増強を背景に、最初の海兵沿岸連隊は2022年にハワイに設置され、昨年11月には、沖縄にも別の部隊が設置されている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  コロナ禍をデジタル産業に繋げた韓国

韓国のデジタル産業の規模は2022年時点で1,142兆ウォンとなり、産業全体の売上高の13%を占めていると、韓国政府・科学技術情報通信部と情報通信政策研究院が報告書「デジタル産業実態調査」を通して発表している。

調査は情報通信技術(ICT)産業だけでなく、近年拡大しているデジタルプラットフォーム産業などに対象を広げて行われた。

デジタル産業の売上高は製造業(2,501兆ウォン)の約5割を占めた。

また、インターネット通販や銀行などのデジタル関連産業部門の売上高は389兆4,000億ウォンで、携帯端末機や半導体などデジタル基盤機器・部品、通信・放送などを含むデジタル基盤産業部門(437兆3,000億ウォン)より規模は小さかったが、デジタル産業全体の約3分1を占めている。

デジタルプラットフォーム活用企業を対象にプラットフォームの活用開始時期を調べた結果、2015年から本格的に活用を始め、新型コロナウイルスが流行した2020~2021年に急速に拡大したと見られている。

インターネットやモバイルで注文を受けるデジタル注文による売上高の割合は58.4%で、非デジタル注文(41.6%)の約1.4倍となっており、とりわけ、飲食や宿泊業などを含むデジタルプラットフォーム活用産業の場合、デジタル注文が66.4%を占めている。

 

l  米国へのAI人材流出を懸念する韓国

韓国マスコミ報道によると、韓国のAI人材もかなり世界的なビックテック企業に引き抜かれている模様である。

即ち、朝鮮日報によると、「最近、世界的にAI産業と関連半導体産業が爆発的に成長し、人材の確保戦争が起きている。

米国のビックテックは名門大学の修士・博士課程を修了した新人の年収が40万米ドルから始まる。

米国の大学でAI修士課程を履修しているKさん(29歳)は、同じ専攻の韓国人留学生のうち、卒業後韓国に帰る人は一人もいないと話した。

名門大学でなくても、海外大学のAI関連の修士課程修了者が韓国企業に要求する年収は約1億5000万ウォンと海外に比べると低く、大企業のある最高技術責任者(CTO)は、韓国企業が応じられる水準ではない、こんな状況で誰が国内に残りたいだろうかとさじを投げている」との主旨の報道をしている。

一方、人工知能(AI)半導体市場で主導権を握る為の半導体メーカー各社の「人材戦争」もエヌビディアを中心に繰り広げられているとの見方が出ている。

事実上、エヌビディアが韓国をはじめ、全世界の半導体中核人材を吸収している状況との見方である。

人材採用プラットフォーム「リンクトイン」を通じて分析した結果、エヌビディアの社員のうち、三星電子出身は515人(リンクトイン登録者で集計)に達している。

エヌビディアから三星電子への移籍者(278人)の2倍近い数字で、三星電子では人材流出が発生していると分析されている。

 

l  韓国国産機動ヘリ「スリオン」実戦配備完了

韓国政府・防衛事業庁は、韓国型機動ヘリ「スリオン」(KUH1)およそ200機の実戦配備を完了したと発表している。

スリオンは、韓国陸軍が運用中だった老朽ヘリであるUH1Hと500MDを代替するため、韓国の国内技術で開発されたものである。

韓国陸軍は最終導入分のスリオンを一線部隊に配備し、これを記念する行事まで開催している。

スリオンは、韓国の国内技術で開発された最初の機動ヘリであるが、運用の過程で事故もあった。

尚、今後はそのスリオンを、安全性改善作業を経て老朽ヘリを代替したとして、海外輸出をすることも視野に入れている。

新たな外貨獲得商品となると期待されている訳である。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,380.73(前週対比+8.48)

台湾:1米ドル/32.50ニュー台湾ドル(前週対比-0.15)

日本:1米ドル/160.84(前週対比-1.29)

中国本土:1米ドル/7.2672人民元(前週対比-0.0063)

 

2.       株式動向

韓国(ソウル総合指数): 2,797.82(前週対比+13.56)

台湾(台北加権指数):23,032.25(前週対比-221.14)

日本(日経平均指数):39,583.08(前週対比+986.61)

中国本土(上海B):2,967.403(前週対比-30.735)