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日賑グローバルニュースレター第336号

1.移民政策で後手に回るバイデン陣営

 

前回の当ニュースレターでは過熱する米国労働市場の大統領選への影響分析を行い、不法移民に依存せざるを得ないアメリカの労働市場の逼迫ぶりを紹介した。  

今週、バイデン政権は大統領令を発し、1日当たりの平均不法越境者数が2500人に達した時点で、米側での彼らの難民・亡命申請手続きを止め、申請者を母国に送り戻すと発表した。

1日当たりの平均不法越境者数が1500人を下回れば、また申請の受付を再開するとしている。 

トランプ政権時代に絞っていた移民の受け入れをバイデン政権になって緩和したことからアメリカを目指す不法移民者の数も増え、最近では一日平均3,500にもなっていた。 

不法越境移民の難民・亡命者申請の正式な受け入れのための米側での処理のキャパシティも強制送還のための施設のキャパシティも限界に達していることから、バイデン政権はそのキャパシティを拡大するための予算を得る法案を議会に提出していたが、共和党大統領候補にほぼ決まっているトランプ前大統領は本件を大統領選挙の大きな争点の1つとするため同法案に反対、結果として廃案となっている。 

不法越境移民は、米国での難民・亡命申請を受理されず強制送還されると母国での迫害に遭うことを恐れるが、バイデン政権は国際法や米国の法律で必要な人権の保護はなされると主張。 

トランプ政権も同様の大統領令で不法越境移民の強制送還を行おうとしたが、難民・亡命者を保護する連邦法を根拠に連邦裁判所がその執行を認めず、今回のバイデン大統領の大統領令も同じ判断を示される可能性がある。 

トランプはバイデンの移民政策を「国境開放政策」という名の「犯罪」と称し、自分が政権に復帰すれば国境を閉ざすと声高に宣言している。  

今週日曜日に選出されたメキシコ初の女性大統領となるクラウディア・シェインバウムは現在のロペス・オルバドール大統領の路線を継承し、移民問題では米国と連携して対応するとしている。 

バイデン政権となった2,021年以降の不法越境移民者数は年間約200万人とかつてない規模にあり、その中には従来の中南米系はもとより中国、インドといった人口大国からも多く含まれている。 

カリフォルニアやニューヨークのようなリベラル州に大量に移送されてくる移民の受け入れの問題が表面化し、社会問題化しつつある中、上記のとおりトランプ陣営はこれをテークチャンスしてバイデンを攻撃、一方、バイデン陣営は国境の取り締まりのための法制度を共和党・トランプ陣営が妨げていると非難の矛先を共和党側に向けていたが、それが功を奏さないとみて大統領令という形に訴えたものとみられる。 

その対応が後手に回っていると見られるとともに、バイデン政権を支えるリベラル層からはトランプ政権と似た内容の大統領令に反発を感じるもの多くいてまとまりに欠ける。 

不法越境移民問題はバイデン政権と民主党陣営の選挙戦にとって、のどに刺さった小骨どころか大きな障害になりつつあるといえる。

 

2. トランプ前大統領の有罪判決の大統領選への影響 ― CBSニュースの世論調査

 

トランプ前大統領のニューヨーク地裁での有罪判決を受けての世論調査がCBSニュースでなされた。 

調査のインタビューは判決前と判決後に分けてそれぞれ2なされている。 

最初のインタビューではトランプ前大統領は有罪と思うかどうかで、56%の人々は彼が有罪と思うと回答。 

2回目のインタビューでは陪審員による有罪判断は正しくなされたと思うかとの問いで、57%の回答者が正しくなされたと回答している。 

民主党支持層と無党派層は有罪と思っていた割合が高く(民主党支持層90%、無党派層50%超)かつ有罪判断が正しいと思った割合はさらに高くなったのに対し、共和党支持層の中で有罪と思っていた割合は25有罪判断が正しいと思った割合はさらに下がっている。 

今回の有罪判決後もトランプは大統領にふさわしいと思うかとの問いに、無党派層では40%弱はYesと答えたが、50%はNoと回答。 

肝心の共和党支持層では10%がNo(ふさわしくない)と回答している。 

その他、様々な角度の質問がこの2回のインタビューでなされているが、今回の世論調査の結論として、判決の前後で有権者の大統領選での投票行動を変化させるインパクトは見いだせないというもの。 

むしろ、共和党支持層がトランプの下での結束を強め、一方でアメリカの司法制度への信頼を低下させている様子が見て取れ、トランプ陣営の共和党支持層に対する世論誘導が功を奏している姿が見て取れるという。

 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国本土、外交姿勢について

 中国本土・習近平政権の外交の基本は、

*全方位外交

*借金漬け外交(債務の罠)

*仙浪外交

であると見られる。

そして、直近では、フランス、セルビア、ハンガリーを習近平国家主席自らが訪問、また、李強首相が日中韓疑似首脳会談に臨むなど、積極的な外交姿勢を示している。

こうした中、中国本土・外交部は、

「中国本土・アラブ諸国協力フォーラム」

の閣僚級会議を5月30日に北京で開催すると発表し、開幕された。

開幕式にはエジプトのシーシ大統領ら首脳も招き、習近平国家主席が出席して基調演説を行った。

ガザ情勢を巡る分断が深まる中、アラブ諸国を重視する姿勢を改めて示し、結束をアピール、その上で、習近平国家主席は、

「アラブとの関係の飛躍的な発展を促進し続ける。

中東諸国との関係強化に努めたい。」

との主旨の発言をした。

中国本土とインドの外交関係は北部国境沿いのカシミール地域で長年にわたって緊張状態を続けてきているが、最近、中国本土政府は南部のインド洋海域でも活動と影響力を強めている。

中国本土は、借金漬け外交と戦狼外交、そして全方位外交姿勢を強める中、インド近隣のスリランカやパキスタン、バングラデシュはもとよりインド洋国家にも外交的アプローチを強め、インドの孤立化をじわじわと推進している。

こうした中国本土に対するインド国内での懸念は高まっている。

 

l  中台ビジネス関係について

中国本土政府は、6月15日から台湾製品134品目の関税特権を停止すると発表している。

台湾の頼清徳総統の就任を受けて、中国本土政府は台湾経済に対する圧力を強めていると見られている。

中国本土政府は、中退両岸経済協力枠組み協定に規定され、現在これらの品目に適用されている特恵関税率を停止すると発表したのである。

中国本土は、台湾が中国本土製品に対して一方的に差別的な制限を導入したと指摘し、これらの制限は協定に違反しているともコメントしている。

自由貿易協定であるこの中台二国間協定は2010年に締結されたものであり、協定の目的は、貿易の更なる自由化であった。

今回の措置は、中国本土が以前に実施した措置の範囲を拡大したものでもある。

中国本土の台湾事務弁公室は、頼政権が「独立支持」の姿勢を維持していると批判しており、同弁公室は、頼政権が中台両岸の対立を煽り、両岸の経済を分断しようとしているとも指摘している。

頼総統は、中国本土政府が言う「一つの中国」原則を否定していると中国本土政府は指摘している。

また、中国本土は先週、2日間にわたって台湾近海で軍事演習も実施している。

 

中国本土、軍事力について

中国本土はカンボジアと合同軍事演習を予定通り実施した。

また、その模様を、中国本土国営テレビは報じたが、その画像を見ていると、中国本土軍が人工知能を搭載したロボット犬とドローンを使った軍事演習を行ったことが流れている。

即ち、中国本土国営中央テレビCCTVは、5月16日からカンボジアとの合同演習について報道する中、遠隔操作されるロボット犬が、歩いたり、ジャンプしたり、横になったりする様子を報じた。

50キログラムもあるこの大型のロボット犬は、背中に搭載されたライフルを発射することが出来、映像には、ロボットが兵士を建物に誘導する様子も映っていた。

また、AIを搭載したドローンが空中から発砲する様子も映っている。

米軍は今、ロボット犬やAI対応ドローンを演習に投入しているが、中国本土は、これに対抗するという意味ことも含めて、自国の軍隊が最先端の技術で能力を高めていることを示していると考えられている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  出生率について

人口は潜在的な労働者の数を示し、潜在的な消費者の数を示す、よって潜在的な経済成長力も示す。

人口が急激に減少していくと言うことは、人口が減っても効率性を高めるなどの対策を取らねば、少なくとも経済成長の鈍化に繋がると考えてよい。

こうした中、本年第1四半期(1~3月)の韓国の合計出産率(女性一人が産むと予想する子ども数)が0.76人で昨年第1四半期(0.82人)より0.06人減ったと、韓国政府・統計庁が発表している。

四半期ごとの統計を出した2009年以降、第1四半期の合計出産率が0.7人台に落ちる今回が初めてとなる。

3月には、出生児数も統計作成後、初めて1万人台に減っている。

合計出産率は全国17市・道(県)でいずれも減少している。

 

l  宇宙開発について

韓国も米露や中国本土などの太鼓空と同様、宇宙開発に力を注ぎ始めており、そうした意味では、

「制宙権」

を意識した覇権争いに参画し始めているとも言える。

こうした中、韓国版NASA(米国・航空宇宙局)」を標榜した韓国の宇宙航空庁が米国スペースXの「ファルコン9」のように再使用が可能なスペースシャトル開発技術の確保に乗り出し、また、太陽観測探査船建造を推進し、第2宇宙センターの構築に乗り出したいとしている。

国家宇宙委員会は、慶南四川宇宙航空庁でユン・ソクヨル大統領主催の会議を開き、このような内容を含む宇宙航空庁政策方向を発表した。

今回の会議は国家宇宙委員会委員長が大統領に格上げされた後に開かれた初の会議となり、ユン大統領はこの日の会議に委員長として出席し、

「宇宙航路を開拓して新しい時代を開くべきである。

2032年には月に韓国の探査船を着陸させ、2045年には火星に韓国の国旗である太極旗をはためかす為のプロジェクトを推進するとしている。」

とコメントしている。

この為、2027年までに宇宙関連予算を年間1兆5,000億ウォン以上に拡大し、2045年までに民間を含めて約100兆ウォンの投資をしていきたいとしている。

国家宇宙委員会は、

「漢江の奇跡、半導体の奇跡に続いて、宇宙の奇跡を成し遂げる。」

と鼻息荒い宣言を行っている。

 

原子力発電について

韓国もフランスや一部欧州諸国と同様、SDGsと良質の電力の安定供給を意識し、原子力発電に対する関心の高い国の一つである。

こうした中、2038年まで原発4基が追加で建設されると見られている。

大型原発3機に加えて、次世代原発の小型モジュール原発(SMR)1基が2030年代半ば以降に稼働させることを開始したいとしている。

新規原発計画を出したパク・クネ政権当時の2015年以降9年ぶりの原発建設計画であり、開発中のSMRが電力計画に含まれるのは今回が初めてとなる。

世界各国で人工知能(AI)拡散、データセンター新設、電気自動車普及などで電力需要が急激に増える中、大容量エネルギー源である原発の役割が大きくなったことによる決定とされている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,387.05(前週対比-21.12)

台湾:1米ドル/32.44ニュー台湾ドル(前週対比-0.20)

日本:1米ドル/156.84(前週対比+0.06)

中国本土:1米ドル/7.2424人民元(前週対比+0.0001)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,636.52(前週対比-51.08)

台湾(台北加権指数):21,174.22(前週対比-391.12)

日本(日経平均指数):38,487.90(前週対比-158.21)

中国本土(上海B):3,086.813(前週対比-2.058)