1.暗殺未遂事件はトランプ前大統領への流れを加速するか
前回のニュースレターでは6月27日のTV討論会でのパフォーマンスの悪さから「バイデン下ろし」の動きが激しくなっている様子をお伝えした。
その後も、公のスピーチでウクライナのゼレンスキー大統領をプーチン大統領と言い間違えたり、カマラ・ハリス副大統領をトランプ副大統領と間違えたりと、「バイ
デン下ろし」を加速させ得るハプニングもあったが、7月13日夜のペンシルベニア州バトラーでのトランプ前大統領暗殺未遂事件が「バイデン下ろし」の動きを凍結して
いる様子をワシントンポストが報じた。
メディアや民主党内で強まっていた若手候補への禅譲を求める声が凍結されたことは再選を目指すバイデン陣営にとっては助かるものの、「被害者」となったトランプ前大統領を批判し難い状況にある。
実際、バイデン大統領はトランプの政策批判や虚偽発言に対する攻撃のコメントを控え、トランプ批判のTV広告を急遽キャンセルしている。
一方、共和党側は狙撃され、負傷しながらも右手のこぶしを点に突き上げ“Fight. Fight. Fight.“と叫ぶ映像をSNSで繰り返し流したり、星条旗が背景に入るアングルで血を流しながらこぶしを挙げる写真をメッセージ抜きでキャンペーンの象徴として位置づけ結束を強めるとともに無党派層の取り込みに余
念がない。
トランプ自身はSNSを通じ、自分を守ってくれたシークレットサービスや警察等への感謝のメッセージと亡くなられた聴衆の遺族へのお悔やみのメッセージを直ちに発すると共に、本人だから語れる狙撃の瞬間の感覚や様子を生々しく語り、最後にGOD BLESS AMERICA!で締めている。
ライス大学の大統領歴史学者のダグラス・ブリンクレイ氏によると「プレッシャーの中で不屈の精神と勇気を見ることを好む傾向がアメリカ人の精神にあり、今回トランプ氏がこぶしを高く上げたことはその精神のシンボルとなる。暗殺者に狙われながら前進することは国民の大きな共感を得て(宗教で言う)殉教者のような立場になる可能性がある」という。
反トランプで著名なコメンテーター等も今回の事件はトランプを大きく優位に立たせることは間違いないとみている。
今週共和党大会が行われているミルウォーキーで1912年に同じく大統領への返り咲きを目指して演説中のセオドア・ルーズベルト大統領も暗殺未遂事件に逢っており、その偶然性に驚く向きもある。
ただ、ルーズベルト大統領は、返り咲きは果たせていない。
共和党大会では予備選で争ったニッキー・ヘイリー元国連大使もトランプ支持を明らかにし、共和党が一枚岩となった。
民主党はいかなる進路を取るのであろうか。
2. 大統領選の争点として最高裁改革を取り上げるバイデン大統領
前回のニュースレターでレポートした通り、米国最高裁判所の右傾化が目立っているなか、バイデン政権は民主党左派からの最高裁の改革を行うよう突き上げを受けている。
上院議員時代に司法委員会のリーダーを務めていたバイデン大統領は最高裁の改革には否定的な立場をとっていたが、大統領選の争点の1つとしてこの最高裁改革を取り上げる姿勢を示したとワシントンポストが報じた。
具体的な改革内容として、①最高裁判事の最長任期を定める法制化と②判事の罰則付き倫理規定策定が挙げられている。
さらには大統領などの行政長が現職中に行った行為に免責を認める憲法の条項を削除する憲法修正もバイデン大統領は視野に入れているという。
左派の怒りの背景には最高裁判断の右傾化と共に、クラーレンス・トーマス判事の最近の倫理上のスキャンダル(高額の贈答品や便宜供与を外部から受けていた)があった。
バイデン大統領は過去3か月間憲法学者と勉強会を開きその準備にあたっていたという。
下院は共和党が与党であり、民主党が与党の上院もこの手の法制に必要な60議席には遠く及ばないことから上述の法制化は現実的ではなく、ましては両院の3分の2以上の合意で発議し、州の4分の3が同意し、かつその州の4分の3以上の議員が承認する必要がある憲法修正はさらにハードルが高い。
ワシントンポストがこの報道をしてすぐにトランプ前大統領は自らのSNSのTruth Socialで「民主党は政敵である自分と最高裁を攻撃することで大統領選を妨害し、われわれの司法体系を破壊しようとしている。われわれは構成で独立した裁判所のために闘い、国を守らなければならない」と記した。
TV討論会の4日後に最高裁は大統領任期中の公的な行為に対する起訴からの免責を認める判断を示している。
その発表から1時間もたたずにバイデン大統領はハーバード法律学校で憲法学を教えるローレンス・トライブ教授に電話を入れ、最高裁改革を相談した。
前回の大統領選でも民主党左派は司法改革を主張していたが、当時のバイデン候補は改革の可能性を調査する委員会を立ち上げることでお茶を濁し当選後もその委員会立ち上げと委員会報告の承認、受領までは行ったが、そこで止まっている。
中絶に対する判断を覆した最高裁への多くの女性の怒りが2年前の中間選挙での民主党の予想外の善戦につながったが、この最高裁改革がどこまで米国のリベラルな有権者を民主党に引き寄せる争点となるかはまだ不明である。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l インテルビジネスの取り込みで競い合う中台企業
台湾では、「最近、インテルがビジネス活動を活発化しており、台湾海峡を挟んで、中台両国の半導体関連企業が、そのインテル関連ビジネスの取り込みにしのぎを削っている」との見方が出ている。
台湾では、例えば、啓虹、舞科、盛明電子などがインテルビジネスの拡大に注力していると見られている。
l 米国テキサス州との経済協力関係を深める台湾
郭志恵経済相は、「米国・テキサス州政府との間の経済協力と発展に関する意向書」の署名式に出席し、グレッグ・テキサス州知事と会談した。
アボット知事は、テキサス州と台湾間の経済発展に関する意向表明書に署名し、経済部は次に台湾のサプライチェーンがテキサス州でビジネスチャンスを見つけられるよう支援する予定であると強調している。
経済部は統合された関連サプライチェーンを地元にもたらし、税金と投資の優遇措置を提供するとしている。
l 頼総統米国研究所長と初会談
頼清徳総統は、事実上の駐台湾米国大使のポジションにあるレイモンド・グリーン氏と会談した。
グリーン氏は、台湾の米国研究所の所長に就任したことによる会談である。
頼総統は、グリーン氏を総統府に招き、会談を行い、米台関係の一層の緊密化を確認している。
(2) 韓国/北朝鮮
l 世界空港ランキングで3位となった仁川空港
英国の航空調査機関であるスカイトラックスが発表した2024年の世界空港ランキングでは、韓国の仁川国際空港が3位に選出された。
1位はカタール・ドーハのハマド国際空港、2位はシンガポールのチャンギ国際空港となっている。
仁川空港が同ランキングで3位に入ったのは2019年以来5年ぶりとなり、2020年と2021年は4位、2022年は5位、2023年は4位であった。
仁川空港はスカイトラックスの、「世界で最も家族に優しい空港」にも初めて選ばれている。
同空港は新型コロナウイルス感染拡大以降、空港の運営が正常化する過程で安全かつ便利な空港サービスを提供するため最善を尽くしてきたと説明している。
スカイトラックスは昨年8月から今年3月にかけて、およそ100カ国・地域の乗客を対象に実施した世界約570の空港に対するアンケート調査を基に空港の格付けを行っている。
l ルーマニアへの陸上兵器輸出契約を締結した韓国のハンファエアロスペース
ハンファエアロスペースはルーマニア国防部とK9自走砲など総1兆3,000億ウォン規模の輸出契約を締結したと発表している。
ハンファエアロスペースによると、今回の契約はK9 54門をはじめ、K10弾薬運搬装甲車36台、弾薬などが含まれている。
これはアンジェル・トゥールバール・ルーマニア国防長官が6月19日、韓国の国防長官と会談を持って決定した事項である。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,375.79(前週対比+3.82)
台湾:1米ドル/32.49ニュー台湾ドル(前週対比+0.03)
日本:1米ドル/158.72(前週対比+2.07)
中国本土:1米ドル/7.2641人民元(前週対比+0.0017)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数): 2,857.00(前週対比-5.23)
台湾(台北加権指数):23,916.93(前週対比+360.34)
日本(日経平均指数):41,190.68(前週対比+278.31)
中国本土(上海B):2,971.295(前週対比+21.372)
4.中東フリーランサー報告29
三井物産戦略研究所の大橋誠研究員から掲題報告を頂戴しましたので共有させていただきます。
大橋さんからは下記メッセージを頂戴しています。
今回はサウジアラビアで開催された「水着ショー」に驚愕し、やたら紙数を使いまくってしまいました。
メディアの中東記事はイスラエル関連が中心ですが、一方でイランの大統領選挙で改革派が勝利を収めるなどのニュースも飛び込み、久しぶりに変化を感じる次第ですが、
しかしサウジの水着ショーのインパクトには遠く及ばず、政治向きの話はメディアにお任せすることと致しました。
そんな具合で、いささか撚れ気味の内容ですがご笑覧ください。皆様の忌憚のないコメント、思い出話を頂ければ幸甚です。
大橋誠