1.バイデン撤退からハリス指名に向けた民主党の舞台裏の様子
先週のバイデン大統領による再選活動撤退表明から今週のハリス副大統領への民主党大統領候補一本化までの一糸乱れぬ民主党内のある種劇的かつスムースな権力移行の舞台裏をワシントンポストが特集した。
6月27日のTV討論会後もバイデン陣営にプランBは無かったが、その翌週から民主党幹部と州の党幹部は極秘裏に打ち合わせを重ね、根回しを開始していた。
具体的には大統領候補を投票で決める全米で約4千人もの選挙人への各州の幹部を通じた“候補者変更”の場合の根回しである。
というのも党のルールで選挙人それぞれが自らの良心に従って誰に投票するかを決めることになっているため。
ハリス自身は最後の最後までバイデンを支持していて、彼女自身プランBの準備は表立ってはしていなかった。
バイデンが撤退を発表する2日前に、民主党の中央と州幹部約50人が会議を持ち、バイデンが選挙戦継続を発表すればそれをそのまま支持し、撤退を発表すれば速やかにハリスを支持することで一本化がなされた。
ハリス以外の可能性で時間をかけ逡巡すれば選挙人も動揺することから瞬時の移行が求められていた。
7月21日午後1時46分にバイデン大統領が撤退を表明し、そこからしばらくは家族と時間を過ごしたが、バイデン―ハリスキャンペーンチームのトップのJen O‘Malley Dillonは27分後にバイデンをしてハリスを後任候補として支持するメッセージをSNSを通じて出させた。
ハリスのアドバイザーは直ちにハリスの自宅に駆け付けハワード大学のスウェットシャツを着てくつろいでいた副大統領とともにそこから10時間以内に100本を超える電話を関係者にかけて支持を訴えた。
そして、民主党の大統領候補選に参加する意向を自宅からでなく、デラウェア州ウィルミントンにあるバイデン―ハリスキャンペーン事務所から発することで彼女がこのキャンペーンを継続しテークオーバーするとのシグナルを発する指示を出した。
30ものバイデン―ハリスキャンペーンのSNSアカウントも直ちにタイトルを変更し、新たなロゴを設け、各戸訪問や献金候補者へ渡すフライヤーの原稿も直ちに変更された。、
そして同日の夜9時12分に各州の民主党幹部がハリス支持の声明を出した段階でハリスのライバルとなり得た何人かの州知事など民主党の大物たちはハリス支持を表明し、一丸となる姿勢を示した。
そしてトランプとの対決姿勢も「元検察官であるカマラハリスが有罪判決を受けた犯罪者ドナルド・トランプを相手にする」というテーマを設けた。
こうしてその夜10時にハリスのチームメンバーはハリスの自宅を後にしたという。
このポストバイデンの候補者一本化には48時間は要すると党幹部も見積もっていたが、AP通信はバイデンの撤退発表から36時間後にハリスで一本化と報じている。
この交代劇の鮮やかさの結果はわずか一週間以内にハリス陣営への献金が2億ドル以上も集まり、そのうち66%は初めての献金者であるということにも現れている。
そして企業献金もバイデンによるハリス支持表明から24時間以内に1.5億ドル集まった。
さらには17万人を超える人々がハリス陣営を支えるボランティアとして登録したという。
そしてTV討論会後低落傾向であった支持率も、ハリスとなって挽回傾向と言う形で現れている。
2. シリコンバレーの分断を深める大統領選
テスラCEOのイーロン・マスク、投資家のMarc AndreessenとBen Horowitz,セコイアのパートナーのDoug Leoneといったシリコンバレーの著名なプレーヤー等はこぞってトランプ支援を表明していた。
ところがバイデンが選挙戦から撤退し、ハリスに民主党候補者が一本化される中でシリコンバレーの力学が左右に分裂し、トランプ・バンス派とハリス派に分かれている。
メタの前COOのSheryl Sandbergはハリス支持をインスタグラムで表明、エンジェル投資家のRon Conwayは仲間のコミュニティにハリス支援を強く呼びかけている。
さらにはネットフリックスの共同創設者のReed Hastingsはハリス支援のPACに700万ドルの献金を表明。
マイクロソフト創業者のビルゲイツの前妻でフィランソロピストのメリンダゲイツも ハリス支持を表明している。
サンフランシスコベイエリアでの献金額も、過去一週間でバイデンが過去1年で集めた額の倍となっている。
オバマ政権を同志とみていた民主党寄りのテックリーダーたちは大規模な買収やAIに対する規制を強化するバイデン政権に怒りを感じている。
暗号通貨の投資家もバイデン政権の規制に反発してきた。
一方で、中絶問題で真剣に悩む女性のテックリーダーもいる。
そうした背景が、シリコンバレーをビジネスフレンドリーな共和党と中絶などリベラルな価値擁護の民主党という2つのキャンプに分けている。
極端な話、サンマイクロシステムの共同創設者の一人のScott McNealyはトランプ・バンスを、もう一人の創業者のVinod Khoslaはハリスを支持している。
トランプは大統領時代暗号通貨に懐疑的であったものが、その後は擁護に回り、今年のビットコイン2024カンファレンスでキーノートスピーチを行っており、自分が大統領となればAIの規制を撤回し、テックインダストリーがイノベーションを起こしやすくすると主張する。
ただ、トランプはメタのザッカーバーグがトランプのフェイスブックアカウントを閉鎖したこともあってビッグテック企業幹部(が自分)に偏見ありとして批判している。
シリコンバレーをさらにトランプ寄りにする力がバンス副大統領候補である。
彼はシリコンバレーで著名なベンチャー投資家の下でそのエコシステムになじみ、自らも投資家として大成しており、多くのネットワークを持っている。
シリコンバレーで彼を見出し、自らの会社で育てたのがビリオネアのベンチャーキャピタリストのPeter Thielである。
その後バンスはシリコンバレーで大成し、いったんホームタウンのオハイオに戻ったがラストベルトでの自らの半生をつづったベ『ヒルズベリー・エレジー』がベストセラーとなると、かれの政治家(上院議員)としての支援も上述のPeter Thielとその仲間たちが行ってきた。
そしてそのバンスを今般シリコンバレーの最終兵器としてホワイトハウスに送り込むべくトランプ陣営に働きかけてきたわけである。
Peter Thielの他に起業家のDavid SacksやPalantirのアドバイザーのJacob Helbergもバンスの起用をトランプ陣営に働きかけたという。
一方、社会変革のイノベーターとしてハリスはカリフォルニア州検事時代に麻薬犯罪初犯者の再犯防止と更生のため高卒の学位の授与と就職先を見つけるプログラムを構築し、警察・治安関係者の高い評価を得ている。
以前からリンクトインの共同創業者のリード・ホフマンのようなシリコンバレーの著名な起業家やJohn DoerrおよびRon Conwayといったベンチャー投資家から政治献金を受けてきているが、大統領候補となってからはシリコンバレーからの献金額が一気に増えている。
彼女のハイテク業界との近さから、大統領となっても特に強い規制で縛ることはないと見られる。
消費者のデータを守る規制には賛成しつつも、グーグルの解体の議論には反対してきた。
バイデン政権によるAI規制などの策定をハリス副大統領も支えてきており、大統領となってもその方針を継続する可能性はあるが、一方で、上述のとおりもともとはシリコンバレーの人々と好関係を持っていたことから元のさやに納まる可能性もある。
ホフマン氏は現状ハリス陣営に対する大口献金者の立場だが、必要に応じシリコンバレーとの仲を保つパイプ役の専門家として政権を支援する意向も示している。
なお、ハリスの義理の弟がUberの法務部門のトップを務めているという。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l TSMCに対する中国本土の発注状況
台湾積体電路製造TSMCの顧客の中の中国本土の顧客の割合は16%になっているとの報告がなされている。
これは、今後、トランプ政権となることを想定した米中半導体摩擦の激化、つまり、地政学的リスクが高まると見られることから、中国本土勢が予防的による緊急注文をTSMCに対して行った影響により増加したものと見られている。
但し、第3四半期には再び減少するのではないかとの見方も出ている点、付記しておきたい。
l 福島県産など5県産の食品輸入規制完全撤廃を発表した台湾政府
台湾政府・衛生当局は、2011年の福島第一原発事故後に輸入規制を続けていた福島県など5県産の一部食品について、新たに規制を緩和する案を発表した。
2022年の規制緩和に続く措置であり、実現すれば日本で流通する食品は全て台湾への輸入が認められることになる。
60日間のパブリックコメントを経て正式決定する。
新たな規制緩和案の対象となっているのは、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の野生鳥獣の肉やきのこ類などで、放射性物質の検査証の添付が条件となる。
l 前年から5割以上増えた香港空港旅客者数
香港空港管理局は7月24日、本年6月及び上半期の香港国際空港の航空交通統計を公表したが、本年6月の旅客数は前年同月から29.1%増の約430万人、離発着数は32.3%増の2万9590回となっている。
本年上半期については、旅客数が前年同期から52.8%増の約2,530万人、離発着数が47.1%増の17万4745回となっている。
同局では、今後も夏休みシーズンにかけて旅客数は増えると予想され、ピーク期における旅客数は今年の年末までにコロナ前水準を回復する見通しを示している。
(2) 韓国/北朝鮮
l 海外売上が初めて1兆ウォンを超えたK-POP
韓国政府・文化観光研究院が公表したK―POPの海外売上高の分析結果によると、2023年の売上高は前年対比34.3%増の1兆2,377億ウォンと推計されている。
K―POP市場の海外での売上高が1兆ウォンを超えたのは初めてとなる。
K―POPの海外売上高は、音盤(CD・レコードなど)類商品の輸出額、ストリーミングサービス、公演の推定売上高を合算して算出された。
海外公演の売上高が5,885億ウォン(47.5%)で最も多くの割合を占めた。
音盤類商品の輸出額は3,889億ウォン(31.4%)、ストリーミングサービスは2603億ウォン(21.0%)となった。
SMエンターテインメント、JYPエンターテインメント、YGエンターテインメント、HYBE(ハイブ)など大手芸能事務所6社の推定売上高は2018年から2023年まで年平均35.0%の成長率を記録したとされている。
l LINEヤフーと韓国NAVERとの関係について
通信アプリであるLINE(ライン)の運営会社のLINEヤフーの大株主である韓国IT大手のNAVER(ネイバー)が、個人情報保護の強化はLINEヤフーが主体となって解決すべき事案であるとの立場を韓国政府に伝達したことが7月21日、業界関係者らの話で分かったと朝鮮日報は報じている。
LINEの個人情報流出問題を巡り、日本の総務省はLINEヤフーに対しNAVERとの資本関係の見直しを求める行政指導を実施したが、LINEヤフーの親会社であるソフトバンクは短期的な実現は困難との見方を示している。
LINEヤフーはNAVERとのネットワーク分離を当初の計画から前倒しして2026年3月までに完了する計画を示しているが、ネットワークの完全分離に先立ちセキュリティー対策もLINEヤフーが主軸となって進める方針のようである。
業界関係者や当局によると、NAVERはLINEヤフーのセキュリティーシステム強化や、NAVERとLINEヤフーのシステム共有部分でのセキュリティーの脆弱性解消などに関する韓国科学技術情報通信部の質問に対して、
「セキュリティー強化問題はLINEヤフーを中心に日本で行われるべき部分である。」
と回答していると伝えられている。
構造的に日本で決定して現地システム内で解決する問題が大半であると説明したと言うことである。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,383.90(前週対比+4.89)
台湾:1米ドル/32.80 ニュー台湾ドル(前週対比-0.02)
日本:1米ドル/153.72(前週対比+3.77)
中国本土:1米ドル/7.2450人民元(前週対比+0.0242)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数): 2,731.90(前週対比-63.56)
台湾(台北加権指数):22,119.21(前週対比-750.05)
日本(日経平均指数):37,667.41(前週対比-2,396.380)
中国本土(上海B):2,890.897(前週対比-91.412)