1.人権擁護とイスラエル支援の微妙なバランスの綱渡りをするハリス候補
今週の米民主党大会でカマラハリス副大統領が正式な党大統領候補に選ばれたわけだが、大会が開催されたシカゴはパレスチナ系アメリカ人が最も多く住んでいることから会場周辺ではバイデンーハリス現政権がイスラエルに軍事支援を行っていることへの抗議の様子が日本でも報道されていた。
今回の党大会ではハリス陣営は中絶問題を前面にして女性票の取り込む求心力を作り出すことには成功したように見える。
ところが、黒人であることによるマイノリティ票の取り込みはそう簡単ではない様子をワシントンポストが伝えている。
非白人のマイノリティの有権者の中でもリベラルから中道までいろいろな立ち位置があるという。
1965年のアラバマでの人権運動中の人々への警察の発砲で犠牲者が出るという“血の日曜日”と呼ばれる事件が生じたエドモンド・ぺタス橋は人権活動の象徴として位置付けられているが、ハリス副大統領はこうした象徴的モニュメントを自らの人権擁護の政治姿勢としてのイメージ戦略で用いてきた。
実際、ガザの問題で記者団に語る際にこのぺタス橋を背景に、「パレスチナ人が多大な被害を被っている状況について私は黙っていることはない」と宣言している。
ただ、バイデン政権のイスラエル軍事支援は継続していることから、マイノリティの人々の中でも、ましてや黒人有権者の中でもハリスの人権擁護姿勢とイスラエル支援姿勢の矛盾から亀裂が生じている。
矛盾を感じているマイノリティ有権者にはもともと反トランプの人々が多いため、大統領選における彼らの選択肢は「投票を差し控える」という棄権とならざるを得ない状況。
当ニュースレターで以前お伝えしたように、ミシガン州にはアラブ系アメリカ人が最も多く居住しており、その政治的リーダーはガザ問題に関し「棄権」を選択肢の前面に出してホワイトハウスに圧力をかけていた。
一方、ユダヤ系アメリカ人の方はイスラエルへの支持継続に向けロビーイング団体を通じ黒人議員を中心にマイノリティ出身議員を分断する働きかけをしているという。
大統領選の勝敗を左右するのは激戦州或いはスイングステーツと呼ばれるペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ジョージア州、ノースカロライナ州、ネバダ州、アリゾナ州の7州での勝敗であり、前回の2020年の選挙の際にもバイデンvsトランプで拮抗し、投票数が万よりも下の千の単位の差で勝敗が決まっていたところもあった。
ジョージア州などでのバイデンの勝利には地元のユダヤ系アメリカ人の投票が貢献していたという。
ハリス候補もアラブ系有権者はもとよりユダヤ系有権者の票を積み増すことで僅差の勝利を確実にしたいわけで、「人権擁護」の姿勢を示しながら微妙なバランスの綱渡りを続けていく必要があるようである。
2. レアアースを巡る西側と中国のつばぜり合い
米中対立の状況は様々な分野で見られるが、重要物資において中国に依存しないサプライチェーンの構築という米国をはじめとした西側の経済安全保障政策において半導体と共に重視されているのがレアアースである。
そのレアアースの確保に関し、中国とのつばぜり合いが展開されている最前線の様子をワシントンポストが報じた。
場所はオーストラリアで、Northern Mineralsという鉱山会社がオーストラリア政府の支援を受け、オーストラリアの西部に大型のレアアース精製工場を11億ドルで2026年までに完成させるというプロジェクトである。
米国をはじめ西側諸国はレアアースを中国に依存していることで将来中国にその供給をブロックされる懸念が常にあったが、このプロジェクトが完成すればその不安から解放されることになる。
このNorthern Mineralsの増資にあたり、中国や中東の投資家が株式購入に参加してきたが、少なくとも4人(組織)の投資家の背後に中国がいることが判明、豪州政府は直ちにこの株式売却を却下した。
別のオーストラリアの鉱山会社のLynasは米国防省から258百万ドルもの助成金を受けテキサス州にレアアースの精製所を設けるところにあり、同社はまたマレイシアにジスプロシウムとテルビウムの生産工場も設ける予定で、これにより米国が中国のサプライチェーンから解放されることになるという。
一方の中国は近年そのレアアース産業を再構築し、採掘はもとより生成、輸出の支配力を強化しようとしているという。
その一環で、人工的に中国製のレアアースの値段を下げ、西側に対する参入障壁を築こうとしている。
また、上述のLynas社のテキサス州とマレイシアのプロジェクトは中国からのSNSを通じた偽情報攻撃にさらされているという。
再生可能エネルギーやEVといった“グリーン化”に無くてはならないレアアースの供給網に関する中国と西側の間のバトルは今後も続くものとみられる。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l パネル大手Innoluxの買収を発表したTSMC
ファウンドリ世界最大手の台湾積体電路製造TSMCは、パネル大手の群創・イノラックスオプトエレクトロニクスと同社の工場及び付帯設備を買収する契約を締結したと発表している。
買収総額は171億4,000万ニュー台湾ドルで、買収対象はTSMCの運営と生産、具体的には先進封止(パッケージ)のパネルレベルのファンアウトパッケージ技術「FOPLP(Low warpage Fan-Out Panel Level Packaging)」の工場として使用されるのではないかと見られている。
TSMCは今回の発表文の中で、台南市にあるInnolux Optoelectronicsの第3工場棟と付帯設備を購入する契約をInnoluxとの間で締結したと発表している。
取得対象面積は、建築面積317,444.93平方メートルとなっている。
l 日本の安全保障関連超党派議員団の訪台
日本の国会議員団は台北を訪問、台湾の蕭碧欽副総統と会談した。
会談では、台湾海峡で起こり得る不測の事態に備える方法について協議したと報告されている。
日本の国会議員団と蕭副総統は、日台双方が政治と民間の両方でコミュニケーションを維持する必要があるということで一致した。
尚、この国会議員団には、与党である自由民主党の石破元防衛大臣、中谷元元防衛大臣、及び野党の前原議員が含まれており、国会議員団は頼清徳総統とも会談している。
また、石破元防衛大臣は記者団に対して、中国本土の行動と能力についても、台湾から学ぶことが重要であると語っている。
l ミャンマー軍事政権への中国の働きかけ
中国政府・外交部は8月13日、王毅共産党政治局員兼外相が14~17日にミャンマーとタイを訪問すると発表した。
メコン川流域諸国との協力について話し合う外相会議に出席することを目的とした外遊である。
中国は、ミャンマー北東部などで衝突するミヤンマー国軍と少数民族武装勢力の「仲介役」に意欲を示しており、昨年から関係各派の和平協議を後押ししている。
外交部はこれまで、「停戦で合意した」などと成果をアピールしてきてはいるが、実際に戦闘が収まってはいない。
こうした中、「ミャンマーの当事者が主張の相違を解決出来るよう、中国本土政府は建設的な支援を提供する」
と言うことを改めて強調してきていた。
そして、王毅共産党政治局員兼外相は8月14日、ミャンマーで全権を握っている国軍のミンアウンフライン最高司令官と会談、ミャンマー国内の情勢を巡り議論、早期の民政移管による安定化を促した。
王政治局員兼外相が、中国はミャンマーが早期に政治的和解を実現し、民政移管のプロセスを再開し、長期的な安定を達成する道筋を見出すことを期待していると述べたことも報告されている。
(2) 韓国/北朝鮮
l 政治的対立が社会的分断につながりやすい韓国
8月4日に発表された韓国保健社会研究院の、「社会統合実態診断及び対応方案-公正性と対立認識」という報告書によると、調査回答者の58.2%が、「政治的立場が異なる人と恋愛・結婚は出来ない」と回答している。
これは同研究院が昨年6~8月に19~75歳の韓国人3,950人に「面接調査」をした結果である。
「政治的立場が異なる人とは恋愛・結婚は出来ない」と回答した割合は男性(53.9%)より女性(60.9%)の方が高く、韓国人女性の政治に対する関心の高さが示されている。
また、全回答者の3人に1人(約33%)は、「政治的立場が違う友人・知人とは酒の席を一緒に出来ない」と回答、更に、71.4%は、
「政治的立場が違えば市民・社会団体活動を共にしない」と回答している。
同研究院によると、昨年の社会対立度(4点満点)は2.93点と測定されたとのことであり、これは5年前の調査(2018年・2.88点)に比べて0.05点上がっている。
つまり、社会構成員は、「社会の対立は更に深刻になった」と感じているということであり、こうした韓国国民の基本的な思考回路は外交問題に関する対立にも繋がるので留意をしておきたい。
l 外国人労働者を増やさざるを得ない韓国の建設現場
韓国国内でも、建設現場に於ける労働力不足が指摘されている中、外国人労働者への依存が高まっている。
こうした中、例えば、国内送電線路建設現場に於いても外国人労働者が投入されている。
ソウル首都圏は電気需要が急増する中、電力不足が顕在化、一方、地方では電力余剰の現象が見られていることから、韓国国内では、地方から首都圏に送電線網を拡充していく計画がもたれているが電気が残って電気を移動させる送電線網の拡充が急がれるが、労働力不足から、その建設が遅れている。
そこで、韓国政府・産業通商資源部と法務部は、国内送電線網建設分野に関しては、外国人労働者に対して、熟練ビザであるE7の発給を許可することにし、外国人熟練技術者を受け入れ、工事を推進していこうとしている。
韓国政府は年間300人の範囲で2年間試験運営する予定で、これにより、工事を推進していきたいとしている。
l 7月の韓国のICT輸出は前年比32.8%増
韓国政府・科学技術情報通信部は、本年7月の韓国の情報通信技術(ICT)分野の輸出額は前年同月対比32.8%増の194億米ドルを記録したと発表している。
半導体やスマートフォンなどの主要品目が好調で、増加率は4月から4カ月連続で30%を上回っている。
品目別では携帯電話(部品含む)が前年同月対比69.4%、コンピューター・周辺機器が51.1%、半導体が49.0%、ディスプレーが2.0%、それぞれ増加している。
携帯電話の好調は中国本土、ベトナムなど主要生産国向けを中心に部品の輸出が107.7%増加したことが要因と見られ、一方、携帯電話の完成品は11.6%減少している点が指摘されている。
また、米国向けが98.2%減少したことなどが特筆されている。
半導体は人工知能(AI)市場の成長、IT機器市場の回復などによる需要拡大で9カ月連続の2桁成長となった。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,356.28(前週対比+8.03)
台湾:1米ドル/32.27ニュー台湾ドル(前週対比+0.23)
日本:1米ドル/148.63(前週対比-1.58)
中国本土:1米ドル/7.1668人民元(前週対比+0.0065)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,697.23(前週対比+108.80)
台湾(台北加権指数):22,349.33(前週対比+880.33)
日本(日経平均指数):38,062.67(前週対比+3,037.67)
中国本土(上海B):2,879.430(前週対比+17.263)