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日賑グローバルニュースレター第344号

1.米国大統領選両陣営の状況と有権者の動向

 

115日の米国大統領選投票日まで2週間というラストスパートの状況での両陣営並びに有権者の状況についてワシントンポストが報じた。 

まず両陣営がテレビやネットでの広告、草の根活動、スタッフ増員などで費やす選挙資金の状況だが、ハリス陣営は第3四半期でトランプ時寧を遥かに上回る10億ドル以上の献金を受けている。 

9月だけを見ても、ハリス陣営が221.8百万ドルを集めたのに対しトランプ陣営はその3分の1にも満たない62.7百万ドルに留まっている。 

そしてハリス陣営が実際に支出してきた選挙資金もトランプ陣営の約3にのぼっている。 

それでも激戦州7州(アリゾナ州、ウィスコンシン州、ジョージア州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ミシガン州)の潜在的民主党支持層で、投票所に滅多に行かない人々に草の根で働きかけるには費用が足りず、ハリス陣営の幹部は危機感を持っているという。 

一方、930日から1015日の間に5016人の登録済み有権者に対しワシントンポストとSchar Schoolが行った共同調査では、74%が既にハリスとトランプのいずれかに投票する態度を決め、26%はまだ決めていないと回答。 但し、「ハリスかトランプの選択を迫られるならば投票はしないであろう」という有権者が6%程度いて、専ら若い世代であるという。

いずれにせよ投票すると回答した有権者の中では21%がまだ投票先を決めていないという。 

さらに詳しく見ると18歳から25歳の有権者の43%が、また非白人有権者の34%がまだ投票先を決めていない。 

今回の激戦州7州の調査で投票するつもりと回答した76%の現段階での両候補の支持率は以下の通り(優位な方を下線強調):  

 

ハリス       トランプ            

アリゾナ      46%         49%

ジョージア         51%                  47%

ミシガン            49%                  47%

ネバダ              48%                  48%

ノースカロライナ47%                  50%

ペンシルベニア  49%                  47%

ウィスコンシン    50%                  47%

 

一方、非常に重要と思う政策課題と、どちらの候補がそれをうまくこなすかという問いに対する回答は以下の通りで、重要度で重みづけして計算すると、激戦州7州の有権者にはトランプのほうがうまくやると映っているようにもみられる。

ハリス         トランプ  

インフレ(66%  33%         49%

経済(65%)     36          51

民主主義(61%)  40          43

ヘルスケア(55%) 46          36

犯罪(49%)     35          45

移民(45%)     33          52

中絶(44%)     51          29

銃規制(42%)   41          40

人種差別(41%)  48          26

ガザ問題(32%)  31          45

気候変動(31%)  46          26

ウクライナ(28%) 34          47

 

面白いのは、全米はもとより世界中から注目されている激戦州7州の有権者の75%は「決定権を持った感覚」を持ち、36%は「正しい選択をしなければ」とプレッシャーを感じているという。 

ただ、両陣営の宣伝広告が7州に日々集中していることには76%もの人々が当惑しているともいう。 

マクロ経済では好調にもかかわらず、有権者の多くが経済は悪い方向に進んでいると感じていることを追い風にトランプが勝利するか、はたまたハリス陣営がトランプに勝る選挙資金を潜在的民主党支持層の若者や非白人層に自陣営への支持の態度を決めさせ、かつ投票所に向かわせる草の根活動に使いきり、2020年の再現を図れるか、あとわずか10日の戦いとなる。

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2. 住宅問題のウェイトが高まる激戦州7州の住宅事情(ワシントンポスト)

 

前記事の通り、激戦州7州の有権者が米国大統領選のゆくえを決する状況にあるが、インフレ問題が有権者の最大の関心事となっていることも前記事の通りである。 

全米の住宅価格はコロナ前の2019年から48%も上昇しているが、激戦州7州のうちノースカロライナは89%、アリゾナは80%、ジョージアは78.6%も上昇している状況にある(ウィスコンシンは48.6%、ミシガン44.5%、ペンシルベニア25.3%、ネバダ12.3%)。 

コロナ禍で住宅資材供給が滞り、サプライが絞られたのに対し、移民は増えつづけデマンドが増したことのアンバランスが特に激戦州7州で顕著になっている。

一方、経済活動でみると、経済産出高、賃金、家賃の全てにおいて、2019年より悪化している郡の割合は全米平均より激戦州7州の方が高い。 

住居環境の悪化に対して、ハリス候補は300万戸もの新築住宅の供給と、初めて住宅を購入する世帯への頭金2.5万ドルの補助、そして低所得者向け住宅税控除といった具体的な政策で訴求している。

また州や市町村の予算に400億ドルを投じ、新たな賃貸住宅や低価格住宅を供給し、住宅建築業者に市民が最初に買う小さな家の建築にインセンティブを出すとしている。  

一方、トランプは具体的な住宅政策は掲げず、税控除や規制緩和で住宅保有を支援し、移民規制によりデマンドを抑えると語るが、建築業界は移民の労働力に依存しているためサプライをも抑えてしまう可能性がある。 

さらに彼は住宅ローンの貸出比率を6.3%から3%に下げて住宅購入しやすくすると語るが、それは連銀の権限であり大統領は決められない。 

有権者もそこは理解しているようで、ウォールストリートジャーナルによれば住宅政策については45%がハリスを支持し、トランプは42%となっている。  

一方、経済全般ではトランプがハリスより優れた政策を有すると回答している。  

米国内の一般消費財のインフレがかなり収まってきている中、激戦州7州の有権者の関心が住宅問題に向くほどにハリス候補が有利となり、景気の肌感覚優先となればトランプ候補が有利となるのかもしれない。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  台湾TSMC四半期当期純利益で史上最高

台湾積体電路製造TSMCは、本年第3四半期の財務報告を発表しているが、当該四半期の連結売上高は7,596億9,000万ニュー台湾ドル、税引き後の当期純利益は3,252億6,000万ニュー台湾ドル、1株当たり純利益は12.54ニュー台湾ドルになったと発表している。

四半期での当期純利益としては新記録を樹立したとしている。

また、設備投資は64億ニュー台湾ドルとなった。

スマホとAI関連需要に支えられた業績と見られている。

 

l  AI用メモリー開発を進める台湾、華邦電

台湾の半導体メモリーソリューションの世界的リーディングサプライヤーである華邦電・ウィンボンドエレクトロニクスは人工知能(AI)用のメモリーを開発している。

同社は、台湾政府のクリスタル・イノベーション・プログラムから5億ニュー台湾ドルの補助金を受けているほか、国内外の新規IC設計会社からもエッジAIアプリケーションが導入されており、10以上の設計が導入され、最初の製品が投入される予定となっている。

来年後半には少量生産される予定となっており、2026年には生産が増強される予定でもある。

台湾のメモリー工場となり、AI応用分野でのビジネス・チャンスを獲得する最初の工場となるであろうとの見方が出ている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  11カ月連続増大する韓国のICT輸出

韓国政府・科学技術情報通信部は、本年9月の韓国の情報通信技術(ICT)分野の輸出額は前年同月対比36.3%増の223億6,000万米ドルとなったと発表している。

これにより、ICT分野の輸出額は11カ月連続で増加し、2022年3月に次いで過去2番目の高水準となった。

人工知能(AI)ブームに伴うサーバー投資の拡大により、半導体の輸出額は過去最高の136億3,000万米ドルを記録したとも報告されている。

半導体メモリーの輸出額は60.7%増の87億2,000万米ドル、システムLSI(大規模集積回路)は5.2%増の43億7,000万米ドルとなった。

科学技術情報通信部は、「広帯域メモリー(HBM)など高付加価値品目の需要が増えたことによるメモリーの輸出増が半導体輸出の過去最高額更新に寄与した」と総括している。 

携帯電話の輸出額も25.1%増の17億1,000万米ドルで、3月から2桁増が続いている。

中国、ベトナムなど、携帯電話の主要生産国向けを中心に部品の輸出が31.2%増加し、7月末に発売された三星電子の折り畳み式スマートフォンの輸出が好調で、完成品の輸出も3カ月連続2桁増を記録している。

 

l  熊本との往復便を増大させる韓国航空業界

韓国航空最大手である大韓航空は11月24日から仁川―熊本線を週7往復運航すると発表した。

韓国の首都圏と熊本を結ぶ大韓航空の路線は、金浦―熊本線が1991年に就航したものの、1997年に起きたアジア通貨危機の影響を受け運休となり、途絶えていた。

大韓航空は、「日本旅行の需要増に合わせて熊本路線の運航を再開する。

27日から仁川と岡山、鹿児島を結ぶ路線を増便し、仁川―長崎線も11年ぶりに再開するなど日本の地方都市に向かう路線の拡大を進めている」

とコメントしている。

また、大韓航空のほかにも、韓国と熊本を結ぶ路線を就航させる韓国航空会社が増えている。

アシアナ航空は11月7日から仁川―熊本線の運航を8年7カ月ぶりに再開し、格安航空会社(LCC)のイースター航空は12月19日から釜山―熊本線を就航させる。

今年1~9月の仁川―熊本線の利用客は約8万600人で、前年同期対比22.1%増加している。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,368.97(前週対比-18.58)

台湾:1米ドル/32.02ニュー台湾ドル(前週対比+0.14)

日本:1米ドル/149.80(前週対比-0.64)

中国本土:1米ドル/7.1026人民元(前週対比-0.0368)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,593.82(前週対比-3.09)

台湾(台北加権指数):23,487.27(前週対比+585.63)

日本(日経平均指数):38,981.75(前週対比―624.05)

中国本土(上海B):3,261.563(前週対比+43.825)

 

4.中東フリーランサー報告31

 

三井物産戦略研究所の大橋誠さんから掲題のレポートをいただきましたので共有させていただきます。

大橋さんからは以下のメッセージをいただいています。

 

前回はパレスチナ情勢の深刻化に背を向けるような感じで、中東の別の顔に目を向けて頂こうと言う主旨でのレポートとしましたが、その後イスラエルによるハマス、ヒズボラの首脳陣殺害や、ポケベル爆破など今までとは違ったレベルの作戦が相次ぎ、その見解を求める要望を読者から多数頂いた事から、私なりのオープンソースインテリジェンスを行いました。

とは言え、イスラエルとイランは全面戦争となるのかとか、開戦したらどっちが勝つんだと言うような、ワールドシリーズの下馬評みたいなことは致しません。

イスラエル軍の「戦果」についてはメディアが刻々と伝えてくれていますので、私は関連する情報や視点について考察することに徹し、皆様のご理解に供したいと存じます。

かつて関係したリチウムイオン電池の話とか、多少マニアックな内容になったかも知れませんが、まとめでは「アラブ対西欧」の歴史観についても触れてみましたのでご覧ください。

ご異論もあろうかと思いますが、ご批評を頂ければ幸甚です。

 

大橋誠

 

 

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