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日賑グローバルニュースレター第341号

1.ハネムーン期間を終えたハリス副大統領の今後 (ワシントンポスト情報)

 

過去6週間でバイデンの撤退、ハリス擁立、ウォルツ副大統領候補指名、民主党大会での大成功と、短時間で奇跡的な転換を遂げた民主党とハリス陣営に対し、ハネムーン期間の支持が集まり、全国レベルではトランプ候補を上回る支持率を獲得し、トランプ陣営がおののいている。 

それでも世論調査では、ハリス自身の不支持率は支持率を上回っているという点でいまだに彼女の人となりや政策がよく理解されていない状況にある。

ご祝儀期間も終わり、今後は具体的な政策を打ち出し、“大統領らしい振る舞い”を如何に見せていくかが問われている。

先週、ハリス副大統領は民主党大統領候補に正式に指名されてから初めてメディアのインタビュー(インタビュアーはCNNのダナ・バッシュ)に応じた

今回のインタビューで政策や彼女の人となりを具体的に伝えることが狙いであった。

ダナからの質問で、国境管理やフラッキング、ヘルスケアに関し、以前はもっとリベラルな立場であったものが現状は中道寄りにシフトしているのはなぜかとの問いに、「私の価値観は変わっていない」として直接の回答を避けている

彼女はもともと口先八丁や巧みな立ち回りをするタイプの政治家ではないが、バイデン政権として成し遂げた実績を強調しつつも、「過去10年のアメリカが本来のアメリカらしい精神に反している状況をチェンジできるのが自分だ」という「継続性」と「変化」の相反する夫々を国民に訴求する話術が求められている。

その点で今回のインタビューではこの微妙なバランスを具体的にどうとるのかについでの彼女の話術は「仕掛中」の印象を与えた

そして米国市場初の女性でかつ非白人の大統領となることがアメリカ社会にもたらす影響に対する質問に関して、ハリスはその影響を謙虚に受け止めつつも、「人種や性別にかかわらず私は自分が今のアメリカの人々にとってこの仕事をこなす最良の人間であると信じています」と回答して締めた。 

一方、トランプ陣営では無党派層に訴求する「経済」や「移民」などの政策面に集中したメッセージを演説の草稿に入れているが、肝心のトランプはテレプロンプターに映る政策メッセージを大儀そうに読みつつ、次第に飽きてきていつものトランプ節に戻り、バイデン・ハリスの悪口をがなり立てて観客を盛り上げている

ハリス陣営は、トランプの女性蔑視的発言やハリスの出自に対する批判にいちいち対応せず、やりすごしている。

またトランプは自らのソーシャルメディアを用いて下劣なジョークや、先日のトランプ暗殺の事案の責任の一部はバイデン大統領とハリス副大統領にあるといった根拠のない憶測を流している

ハリスチームはこれにもノーコメントを通している。 曰く「なんでこの男に関わる必要があろうか」と

激戦州7州の無党派層に訴求するためには当然そう答える必要があり、今後ますます政策の具体性が求められてこよう。

 

2. 不法移民問題でハリス候補は守勢から攻勢に転じることができるか?

 

既報の通り、比較的好調な米国経済を底辺で支える労働者として合法移民はもとより不法移民も建設、農業、飲食サービス分野で雇用されているのが実態である。 

米国でも出生率が減少中であり、コロナパンデミックの影響で転退職者が増大するGreat Resignationと呼ばれる労働市場の現象において特に労働者不足が顕著である。 

国境の壁建設からビザ審査の厳格化、特定アラブ出身国者の排除など米国への移民を制限してきたトランプ前政権に対し、バイデン政権はパロールという大統領権限で合法的移民の受け入れ枠を毎月約75千人に拡大してきた。

不法移民流入に関してはトランプ政権時には毎月5万人を大きく下回る数であったものが、バイデン政権では今年1月には25万人にも達するという無秩序状態に陥り社会問題化した

バイデン政権は議会に働きかけて国境管理能力を高める超党派法を提案したが、トランプの圧力により共和党の反対に逢い実現していない。 

ところが、バイデン政権はその後ホワイトハウスを中心とした政権内の改善案実施により厳格な入国管理審査方針を徹底、不法移民の数を5万人程度にコントロールしている。  

その劇的な改善の立役者としてワシントンポストがヌネッツ・ネトーというホワイトハウスの担当者の存在をスクープした。

彼はアルゼンチンからの移民で、Rand Corporationで国境警備問題を研究する研究者であったところを国土安全保障省の政策顧問からヘッドハントされてU.S. Customs and Border ProtectionChief Operating Officerに抜擢されていた。 

そこからホワイトハウス内に呼び込まれて不法移民対応を指揮することとなった。

スペイン語もネイティブであるネトーはメキシコを中心に中南米諸国の政府と精力的にかつ粘り強く交渉し、彼らをして不法移民削減に協力させるスキームに参加させることに成功したのである。

今回の大統領選ではトランプ陣営は上述の不法移民無秩序状態を強調し、その責任がハリス副大統領にあるという構図で攻めている。 

実際は、ハリスは中央アメリカへの投資を促進し、そこで雇用を創出することで結果として米国への移民流入をコントロールするという経済政策の責任者であって、不法移民対策の責任者ではなかった。

910日の大統領候補者によるテレビ討論会においてもトランプは不法移民問題でハリス候補の責任を問うであろう。 

確かにバイデン政権がその国境の無秩序状態を生じせしめたことは事実だが、その後、上述のネトーを中心としたチームの働きで政権としては国境のコントロールを取り戻している。

前述のとおり国境コントロールのための予算(国境警備官増員、申請者一時滞留場所確保、入国不許可者送り戻しのフライト、その他)確保のための超党派予算法案をバイデン政権が求めたのに対し、トランプの肝いりで共和党が廃案に持ち込んだことをハリスは強く非難するかたちでむしろ守勢から攻勢に転じるかもしれない。

経済政策、外交・安全保障政策、対中政策などどのような具体的なやり取りがなされるのかテレビ討論会が注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  鄧小平生120年記念式典で中国式現代化を強調する習近平

中国共産党は、かつての最高指導者である鄧小平の生誕120年を記念した座談会を開催した。

習近平国家主席が演説を行い、「鄧同志を記念するのに最も良いのは、彼が切り開いた中国本土の特色ある社会主義を引き続き前進させることである。」

と強く訴え、習近平現政権が目指す、「中国式現代化」が、鄧の事業を引き継いでいることを強調している。

 

l  月の土壌から水を生成する技術を考案した中国

中国のマスコミ報道などによると、中国の科学者チームは、月の土壌から水を生成する為の新しい技術を考案したと発表している。

中国国営の中国中央テレビは中国社会科学院のグループがこの方法を考案したと報じている。

当該チームは、中国が2020年に打ち上げた無人探査機の帰還カプセルが持ち帰った月の土壌サンプルを分析しているものである。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  食糧安全保障の問題意識を高める韓国

韓国の主要経済団体の一つである韓国経済人協会(韓経協)は、公表した資料で、韓国は昨年の国内総生産(GDP)が世界14位の経済大国であるが、トウモロコシ、小麦、大豆など主要穀物の90%以上を輸入に依存していると指摘している。

また、英誌エコノミストの調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が各国の食糧供給力や食品安全などを総合評価し発表する世界食糧安全保障指数で、韓国は日本、中国より順位が低いことも明らかになったとし、韓国国内では問題視され始めている。

2012~2022年の韓国の順位は37~44位であった。

また、同期間に日本は20位以内を維持し、中国本土は49位から25位に上昇した。

2022年の同指数の4大項目別の順位で、韓国は3項目で日本、中国本土より順位が低かったとも報告されている。

 

l  AI研究者不足に危機感を持つ韓国

韓国に於ける人工知能(AI)分野の研究者数は世界の主要国に比べて非常に少ないとの調査結果が公表されたと朝鮮日報は報道している。

韓国科学技術企画評価院(KISTEP)が公表した、「国家戦略技術R&D(研究開発)人材実態調査」によると、昨年末時点で韓国のAI研究者数は約2万1,000人。

また過去6年間に発表されたAI分野の論文数は約1万4,000本となり、研究者数は世界9位、論文数は世界12位となったと報告している。

韓国のAI論文と研究者数はこの分野で「3強」とされる中国本土、米国、インドに大きく水を開けられているとした。

中国はAI分野の研究者数41万1,000人以上、論文数は22万本でいずれも世界1位、インドは研究者数19万5,000人、論文数11万7,000本で2位、米国は研究者数12万人、論文数8万8,000本で3位となっている。

質的に見るとその格差は更に広がり、少ないデータを使ってAIモデルを学習させる「Few-shot学習」、コンピュータービジョン、ディープフェイク(deepfake)など新たな研究分野で最も論文数が多い上位500人の研究者に限ると米国(31.8%)が最も多く、中国本土(24.2%)がそれに次いで2位、上位500人の研究者は主要国に20人ほどいるが、韓国は5人で世界16位であるとしている。

昨年末の時点で韓国に於けるAI関連の従事者は5万1,425人と推計されている。

学位別では学士3万2,916人(64.0%)、修士1万2,018人(23.4%)、博士4,124人(8.0%)となっている。

昨年のAI関連職種の従事者数はAI開発者5,257人、AIプロジェクト関係者793人などだが、国全体では8,579人不足していると報告されている。

 

l  米国ロッキード・マーチンの出身者をトップに迎えたハンファエアロスペース

韓国は産官学・金融力を合わせて防衛産業の育成に取り組んでいる。

こうした中、防衛産業大手のハンファエアロスペースの米国法人は、新しい法国法人のトップに米国・航空宇宙大手であるロッキード・マーチン出身のマイケル・スミス氏を任命したと発表している。

ハンファエアロスペースは自走砲「K9」や装甲車「レッドバック」などを生産・輸出している。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,333.47(前週対比-10.04)

台湾:1米ドル/31.74ニュー台湾ドル(前週対比-0.20)

日本:1米ドル/145.12(前週対比-0.75)

中国本土:1米ドル/7.0925人民元(前週対比-0.0319)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,674.31(前週対比-27.38)

台湾(台北加権指数):22,268.09(前週対比+110.04)

日本(日経平均指数):38,647.75(前週対比+283.47)

中国本土(上海B):2,842.214(前週対比-12.154)