1.ハリス候補とトランプ候補それぞれの勝ち筋
ワシントンポストが行ってきた世論調査の推移から9月23日時点でのハリス対トランプの支持状況はほぼ互角と伝えられ、勝敗のカギを握る激戦州7州の内訳は、ハリスがペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンおよびネバダでリードし、トランプがジョージアとアリゾナでリード、ノースカロライナは両者ほぼ同率という状況にある。
この時点でのハリスとトランプの勝ち筋を同紙がまとめていたので紹介する。
ハリスの勝ち筋その1: ラストベルトで勝利し、選挙人数で勝利に必要な最低数270人丁度を獲得
このシナリオは上述のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンというハリスが現在リードしているラストベルト内の激戦州3州すべてに勝利し、かつもともとブルーステーツと呼ばれる伝統的に民主党が強い州で取りこぼしなく勝利すると、獲得する選挙人の数が大統領選勝利に必要な最低数270に達するというもの。
この場合でも選挙人総取りとならないネブラスカ州の第二選挙区での1名の選挙人を獲得できることが前提で、これを失うとこのシナリオは成り立たなくなる(選挙人数が269で同数となると下院与党の共和党が有利)。
ハリスの勝ち筋その2: バイデンの2020年勝利の再現
現状の世論調査のトレンドはハリスの支持が高まる傾向にあるため、現状はトランプが有利なジョージアやアリゾナでもハリスが勝利し、バイデン大統領が2020年に獲得した選挙人数と同数(306人)となるシナリオ。
現在イーブンとなっているノースカロライナ(選挙人数15)は、2020年はトランプが勝利したが、これもハリスの側に落ちる可能性もある。
一方、ハリスの懸念は黒人とヒスパニックの有権者の支持が伸び悩んでいること。
トランプの勝ち筋その1: 激戦州3州の勝利で選挙人270を獲得
現在リードしているジョージアに加え、ハリスと互角のノースカロライナ、ハリスが現状リードしているペンシルベニアで勝利するシナリオで若干ストレッチがあるように見られるが、ハリスのリードは誤差の範囲であり、2016年で見た通り、トランプはかなりのリードを許していたヒラリークリントンに勝利している。
ただ、このシナリオもレッドステーツでの取りこぼしはなく、かつ選挙人総取りとならないメイン州の第二選挙区での勝利が前提となる。
トランプの勝ち筋その2: サンベルトで勝利し、かつラストベルトで少なくとも1州勝利
現在リードしているジョージアとアリゾナに加え、ハリスとタイのノースカロライナおよびハリスがリード中のネバダのほかの2つのサンベルト州でも勝利したとしても270には届かないことから、トランプに有利な白人票の多いウィスコンシンでも勝利するというシナリオ。
ただ、ラストベルトの中でもウィスコンシンではハリスがトランプを現状最もリードしている州ではある。
別のワシントンポストの記事ではハリスの選挙資金はトランプの倍集まっているようで、その点でも現状のハリス支持率上昇のトレンドはまだ続くと考えられる。
ただ2016年の大統領選のように圧倒的リードを保ったヒラリークリントンが敗退したことは記憶に新しく、多少のリードはやはり誤差の内とみられる。
いくつかの州ではすでに期日前投票が始まっているが、やはり最終的には来月のいわゆるオクトーバーサプライズがあるかどうかがポイントとなってくるのではないか。
2. トランプが就任初日に実行すると公約した政策
共和党大統領候補のトランプ前大統領は選挙に勝利し来年1月に大統領に復帰したならばその就任初日に実行すると約束している顕著な政策が41あるとワシントンポストが報じた。
彼は選挙演説を通じてこれらの選挙公約を200回以上繰り返し宣言しているという。
就任初日に実行するという主な公約は下記の通り。
- 教育: トランプ自身が“批判的人種理論 (critical race theory)”や“トランスジェンダーの狂気 (transgender insanity)”と称する内容の教育を行う学校への予算をカットすること。また、マスク着用を強制する学校に対しても同様。
- 移民: 米国史上最大規模の不法移民国外退去を実行する。また、バイデン政権が設けた国境開放政策をすべて撤廃する。
- EV: バイデン政権が行ったEV推進策(燃料排出基準やEV購入インセンティブ)を撤廃する。
- トランスジェンダー: 男性から女性に性転換したアスリートの女性スポーツ競技への参加を禁止する。
- 米国で生まれれば自動的に市民権を得られるという合衆国憲法修正第14条で認められた権利を特定のグループの子女には認めない。
これら41もの政策の実行の中には憲法で認められている大統領の権限を越えるものが数多くあり、時間をかけて連邦法の手続きに則る必要があったり、議会での法制化や予算手続きを必要とすることになることから短期間の実現は困難とみられる。
また、仮に大統領権限で実行できても反対訴訟や、ロジ上の問題で、そう簡単に短期間に実現できるものは多くない。
ただ、バイデン大統領が大統領令で行った政策を取りやめたり変更することは新たな大統領権限で可能となる。
例えばAIの発展に関するものや銃の購入者のバックグランドチェックの強化、DE&I(多様性、平等、包摂)を連邦政府職員に浸透、といったバイデンの大統領令を初日に撤廃するとトランプは宣言している。
大統領権限の乱用に対する懸念に対し、トランプは昨年末のインタビューでは、「自分は独裁者にはならない。ただし就任初日を除いては」という発言をしており、南部の国境閉鎖や国内の石油掘削拡大などを初日に強引に進めると宣言していた。
一方、民主党大統領候補のカマラハリス副大統領は、就任初日的なものは高らかに宣言はしていないが、公約で宣言している経済政策を初日から発動することで消費者価格を下げ、中間層を強化すると語ってはいる。
因みに、トランプとハリスの共通の公約にサービスに対するチップへの課税を止めることがある。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 台湾の今年度の経済成長3.82%に上方修正
台湾中央銀行は、本年の台湾の経済成長率を3.82%に上方修正し、来年の成長率も引き続き3%を超えると予想しているが、経済状況にはばらつきがあり、経済見通しは必ずしも順調ではない。
経済政策の調整、世界的なサプライチェーンの再構築、中国本土の経済成長鈍化による波及効果は、台湾に悪影響を与える可能性があるとコメントしている。
台湾中銀の最新経済見通しは、今年の経済成長率見通しを6月の3.77%よりも良い3.82%に上方修正し、2025年の経済成長率は3.08%になると予想している。
台湾国内では、台湾海峡両岸の観光業は厳しい時代に入ったと言われているが、海峡直航貨物量は安定を保っているとされている。
台湾政府・運輸部の統計によると、本年上半期の海峡直航コンテナ量は合計147万1,000TEUとなり、前年同期の水準を上回ったことからこうした見方が出ている。
即ち、運輸部の統計によると、本年上半期の海峡直接輸送のコンテナ量は、前年同期の116万TEUと比較して、約26.8%増加している。
海峡直航輸送の初年度とされている2009年のコンテナ量は年間では、155万6,000TEUで、その後年々増加し、2012年には初めて200万TEUの大台を突破していた。
2021年の年間海峡直航コンテナ輸送量は260万1,000TEUを超える歴史的最大値に達した。
昨年もその量は約250万TEUを維持している。
l 中国主要70都市中67都市で8月の新築住宅価格が下落
中国政府・国家統計局は、調査対象となった主要70都市のうち67都市で、本年8月の新築住宅価格が前月対比で下落したと発表している。
これは調査対象都市全体の95%以上に相当する。
下落した都市は前月対比1都市増えて、2都市では前月対比で上昇、1都市は横ばいとなった。
大都市では、上海が0.6%上昇したが、深センは0.8%、北京と広州は0.5%ずつ下落している。
地方の小規模都市の平均は0.8%下落している。
中国政府は売れ残った住宅の買い取りなど市場てこ入れ策を発表しているが、不動産不況は改善していないと見られる。
今後、中国政府が追加措置を講じるかどうかが焦点となっているが、基本的には不動産バブル発生を警戒している習近平政権は、状況を見ながら、粛々と対応してくるのではないかと筆者は見ている。
(2) 韓国/北朝鮮
l 韓国海外旅行者増大中。訪問先人気で1位日本、2位ベトナム
仁川国際空港公社が公表した「2024秋夕連休海外旅行意向調査」で最も多い旅行先としては日本とベトナムの名前が上がっていた。
この調査は満18歳以上の国民のうち、ここ5年以内に仁川国際空港を通じて出国した1,270人を対象に先月1~7日に行われた。
最も行きたい旅行先としては回答者の31.1%が日本を選んでいるが、比較的近い上に、円安も続いていることが大きな要因と見られている。
2位はベトナム(18%)となった。
仁川国際空港公社によると、最も長い場合でも5日と今年の秋夕連休は昨年よりも短い為、短距離路線或いは滞在期間が1週間以内の短い旅行が好まれると予想されている。
今回の秋夕連休期間、海外旅行に行く考えがあるかを尋ねる質問には回答者の11.2%が、「海外旅行を計画している」と回答、これは昨年の9.2%よりも多く、2020年に調査を開始して以来、最も高い数値となっている。
l 韓国主要大企業の女性役員比率7.3%に倍増
韓国の主要大企業に於ける女性役員の比率は5年前より凡そ2倍に増えた反面、女性の雇用比率は足踏み状態であるという調査結果が示されている。
男女平等の為の法改正が行われたが、まだその変化は上層部に留まっている。
即ち、社団法人Women in Innovationと企業分析研究機関LEADERS INDEXは、韓国国内500大企業のうち事業報告書を提出した353社を対象として把握した多様性(両性平等)指数評価結果によると、女性役員の比率は2019年の3.9%から2024年には7.3%と2倍近く増えている。
資産総額2兆ウォン以上の上場企業の取締役会を特定の性が独占出来ないように規定した資本市場法が2020年に韓国国会を通過した効果であると分析されている。
ただし、資本市場法関連のこの評価を巡っては、「恩着せがましいという批判も出ている。
同期間に、女性の雇用比率は26.2%で足踏み状態であった。
それだけでなく、増えた女性取締役も、相当数は社内取締役ではなく外部から迎え入れた社外取締役となっている。
Women in Innovationは、「実質的な変化の為には、後続として女性役員候補者養成の為の措置が取られなければならない」と厳しくコメントしている。
l 2023年の韓国の対米投資額世界一位
韓国国内では、「韓国が史上初めて、米国の最大投資国になった。」との見方が出ている。
即ち、2023年基準で見た場合、韓国企業が米国内のプロジェクトに投資すると約定した規模が215億米ドルを記録し、これが世界一となったとしているのである。
米中覇権争いが深刻化し、米国が中国を国際的なサプライチェーンから排除しようとする試みが続くとの見方が韓国では強まり、「中国に投資していると、韓国の対米ビジネスの道が妨げられる危険性がある」
との懸念が強まる中、韓国企業が対米投資を大幅に増やしたとの見方がなされている。
また、米国側も、未来産業を支える半導体・電気自動車などコア産業で高い競争力を持つ韓国企業との積極的な協力はメリットが高いと判断しているとの見方も出ている。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,336.40(前週対比-8.19)
台湾:1米ドル/31.98ニュー台湾ドル(前週対比-0.04)
日本:1米ドル/144.25(前週対比-3.43)
中国本土:1米ドル/7.0550人民元(前週対比+0.0380)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,593.37(前週対比+17.96)
台湾(台北加権指数):22,159.42(前週対比+399.77)
日本(日経平均指数):37,723.91(前週対比+1,142.15)
中国本土(上海B):2,736.814(前週対比+32.724)
4.中東フリーランサー報告30
三井物産戦略研究所の大橋さんから掲題のレポートを頂戴しましたので共有させていただきます。
大橋さんからは以下のメッセージを頂いています。
2カ月ぶり以上のご無沙汰です。久しぶりの中東フリーランサー報告をお送りします。夏休みだった訳ではなく、手伝っている総合商社向けキャリア転職支援が佳境を迎え、そちらに忙殺されておりました。総合商社のキャリア採用は右肩上がりで、例えば三菱商事の公表値では新卒採用が毎年120人程度で続いているのに対し、キャリア採用は2021年度が16人であったのが、2023年度は99人となっており、どちらかと言えば社員のロイヤリティが高い総合商社でも、人材流動化が急速に進んでいることが体感された次第です。
人材流動化の先には、人材グローバル化が避けて通れません。人材マネジメントの国境をどのように整理するのか、日本企業にはグローバル人事政策が成長戦略の軸になってくるのでしょう。そうした意味で、グローバル人材プールの極致こそGCCの就職市場だと思います。今回のレポートでもドバイ不動産市場が遂にドバイショック前を凌駕したことに触れていますが、ここに至るUAEの外国人受け入れ政策については、将来の日本の労働市場を考える上で大いに参考にすべきと思います。日本にとって、中東は与えるところではなく、学ぶところになりつつあります。
そんな思いで、中東と言えばガザ紛争でのイスラエルとハマス、それにヒズボラ、と言う視点から外れ、むしろ中東の人達の日常的興味の軸を想像しながら作文致しました。筆者のボケ防止の為にも、皆様の忌憚ないご批判を頂けますと、まことに有難く存じます。
大橋誠