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日賑グローバルニュースレター第348号

1.現場有権者とのかい離が目立つ民主党幹部

 

日本製鉄によるUS Steel(以下USS)買収をバイデン大統領が阻止したニュースは日本製鉄の提訴の話と共に日本ではトップで連日伝えられている。 

当のアメリカでどの程度本件がメディアの注目を浴びているかは不明だが、ワシントンポストは「バイデンは組合の望むものを与えることで組合員を如何に裏切ったか」という解説記事を出していた。 

“(USSのような)アメリカの象徴的企業は国家安全保障の理由から米国資本に保有され続けるべきである”というバイデンの発言に今の民主党幹部に共通の「現場乖離の無神経さ」を指摘する内容である。 

USS自身はかなり以前より自前での生存が厳しくなり、ジョンソン大統領以来の大統領による競争相手への輸入関税や輸入割り当てなどの保護主義的手法でUSSを保護する政策を取ってきている。

ただ、そうした保護主義的政策もUSSの老朽化する設備の低生産性という抜本的問題を解決することはできず、2023年のUSS自身による身売りオファーとなった。

同社は既にデトロイトやセントルイスの工場の一部を閉鎖し、雇用を減らしてきている。 

今回の買収による設備改修と生産性向上を行わなければさらなる工場閉鎖、雇用喪失が懸念されている。 

国家安全保障の問題ではなく、有権者たる組合員の雇用が危機にさらされているわけである。

USSの組合員はその厳しい状況を肌身で感じているので買収オファーの中でベストな提案を行った日本製鉄による買収に賛成の人々が多数のようだが、組合幹部は日本製鉄が買収提案の際に組合幹部に根回しをしなかった事実をもって日本製鉄は買収後、組合弱体化に動くとしてその買収に反対、バイデン大統領は組合幹部の「反対」を以て、自らの判断を下している。 

そこには後任のトランプではなく、自分こそが「労働組合を最も大切にしてきた大統領」という“称号”を得るエゴがあったと記事は推察する。

そもそも、最も緊密な同盟関係にある日本側の感情に無配慮(侮辱(insultation)と記事は表現)ではないかと同記事は指摘する。 

コロナワクチンが出回ったにもかかわらず学級再開を拒んだ教員組合を擁護して実際に教育を受ける人々の批判を招いたり、社会正義グループを支援するという安易な目的でクリーンエネルギー投資の加速を抑えたりという民主党幹部の短絡的で現場と遊離した安易な判断が現場の有権者から遠ざかってきていることと今回のUSS買収判断とは共通した民主党側の問題としてワシントンポストは位置づけていた。

バイデン自身には有権者からの彼の人気が衰えている現場状況を民主党幹部は伏して知らせず、そのまま再選に走らせてしまった裸の王様をつくりだす構図が、今回の選挙でのトリプルレッドとなった要因の一つなのではないであろうか。

 

2. 気候変動対策としての海洋のアルカリ化の行方

 

世界の海洋は今現在大量のCO2を吸収、貯蔵しているが、海水を化学的に若干アルカリ化にすることでより多くのCO2を海水に閉じ込め用途の科学者とベンチャー企業の計画の様子をワシントンポストが報じた。 

この「海のアルカリ化促進」と呼ばれる技術は、溶けるとアルカリ化を促す岩を海中に溶かすパターンが一つある。

その技術を用いたスタートアップ企業が2社活動を開始している。 

Planetary社はShopifyStripeというeコマース会社の排出削減の目的でこの技術を用いて13立方トンものCO2吸収に先月成功した。 

Ebb Carbon社は次の10年でマイクロソフト社の排出削減のために35万立方トンのCO2を吸収するという。 

実際にはアルカリミネラルやその溶液を海中に注入する形を取っている。

ただ、米国の気候変動対策として意味のある削減量は数十万ではなく数十億立方トンとなる。 

海洋では海中にある石灰岩や玄武岩などの岩が自然に溶け出すことでアルカリ化の化学反応が進んでいて今の海のPH8.2となっている(PH7以上はアルカリ)。

海中に入ったCO2はアルカリ性物質と化学反応し重炭酸塩イオンという安定物質を生成し、海中に留まる

この際に酸化は生じない。 

海中に上述の岩のようなアルカリ化物質が増えると海自身が均衡を保とうとしてより多くのCO2を吸収するという。 

米国海洋大気圏局(NOAA)も、この「海のアルカリ化促進技術」が最も安く長期的にCO2を捕捉できる方法と結論付けている。 

ただ、課題も色々ある模様。 

アルカリミネラルはすぐに海中に溶け浸透するのでCO2吸収量の算出が難しい。  

漁業関係者からは海洋のエコシステムに与えるインパクトを懸念し、反対を表明する組合もある。 

ただ、各種実験から少なくとも海洋の食物連鎖の底辺のプランクトンに対する影響はないと見られている。 

規制面では環境庁(EPA)はPH9を超えるアルカリ化状態を起こすものを海中に加えることは規制するとなっている。  

本技術がどこまで実用化されるか注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国経済の実態

中国国内では、「実体経済は政府統計よりはるかに悪い」と声が強まっており、それがインターネットメディアやソーシャルメディアで急速に拡散されているが、それをまた政府当局が削除しているとの見方まで出ている。

中国は昨年12月11日から2日間、習近平国家主席の主宰による、2025年の成長率目標や経済政策の方向性を決める中央経済工作会議が開催された。

それを前にして中国本土経済に対する悲観論が拡散するのを防ぐ狙いがあったものと見られている。

海外のソーシャルメディアに掲載された講演原稿によれば、中国政府が緊張してもおかしくない内容となっている。

国有金融機関である国投証券では、「この3年間で中国本土の経済成長率は毎年3ポイント、計10ポイントが過大評価されている」との見方を示し、2023年に中国本土政府が発表した経済成長率は5.2%であったが、実際には2.2%程度であったとの見方を示している。

また、東北証券でも、「この2年間で配車アプリのドライバーが2,000万人増えた。中産階級の没落が本格化していることの表れである」との指摘をしている。

こうした見方の中では、2025年の中国の経済状況について、「活気溢れる老年層、意気消沈した若い世代、希望を失った中年層」

との評価も出ており、老年層が予測可能な老齢年金に期待して安定的な消費生活を送っている一方で、働き口がなく未来の収入増に対する希望も失ってきている青年層は衣食にかける費用を節約しながら何とか持ち堪えているとの見方が示されている。

そして、実際に中国31省・直轄市の統計によれば、若年層の割合が高い地域ほど消費の伸びが低下している。

また、2020年に不動産バブル崩壊が始まって以降、中国政府が発表した3年間の成長率統計に対しても疑問の声が出ている。

都市就職人口の推移、投資の伸び、物価指数の変化などとつじつまが合わないというのがこうした疑問の声の背景であり、また、こうした疑問が外国勢からではなく、中国国内から出ていると言うのが、今回の特徴である。

2020年に新型コロナウイルス感染拡大が始まる前までは、中国は消費と投資の伸びが経済成長率と同じ傾向を示していたが、この3年間は中国政府が発表する経済成長率が消費や投資の伸びより遥かに高くなっており、違和感があるとされている。

こうした見方の上で、過去3年間、毎年成長率が3ポイントずつ過大評価され、合計すると10ポイントに達するとし、中国政府発表数値から毎年3ポイントを差し引けば、消費・投資の伸びと推移がほぼ一致するとの見方となっている。

就業者数についても、中国の都市部の就業人口は、新型コロナウイルス感染拡大が始まってから急激に減少し、ゼロ・コロナ政策が終了した2023年に回復を始めたが、まだ長期的な増加傾向と一致するほどには増えてはいないと見られている。

それをもとに試算すると、4,700万人の失業者がいるとの見方も出来るとされている。

2023年末現在の中国都市部の就業人口(4億7,000万人)の10%に当たる数値であり、小さくない失業者の予測値となる。

また、こうした状況を受けて国際金融市場からは、「中国経済は高齢化などにより、新型コロナウイルスん感染拡大以前の2019年から既に構造的な需要低迷周期に入っていた。

内需低迷を解決できなければ、中国も日本のように失われた35年に直面する恐れがある」との見方も出始めている。

こうした状況下、中国政府の景気刺激策が景気浮揚には不可欠と見られているが、その政策についても否定的な見方が出ている。

2008年の世界的な金融危機当時は4兆人民元の大規模な景気浮揚策が需要を創出して効果を上げたが、現状では、国家が借金をしてインフラ建設を加速する方式では限界があり、何よりも国内消費を引き上げることは出来ないであろうとの見方が出ている。

更に、人口問題も加わり、成長期が終わろうとしている中国経済は、分配に焦点を合わせるべきであるとの声が内外から出てきている。

こうした中、「中産階級の所得水準に達していない低所得層は全体人口の65%で約9億人と推定される」

との見方もあり2021年時点で月収2,000人民元以下の人口が9億6,400万人に上るとの見方が経済誌にも投稿され、削除騒動に発展した。

習近平国家主席は貧困層解消を自身の功績の一つに挙げてきているが、国内ではそれを真っ向から批判し始めている。

人民解放軍内部の不正腐敗問題拡大もあり、習近平国家主席の権力掌握力が低下しつつあるのではないかとの見方も高まる中、経済でも不満が高まれば、

「異例の三期目」に突入している習近平体制にほころびが生じる可能性もある。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  ユン・ソクヨル大統領の非常戒厳宣言後の経済見通し

韓国政府・企画財政部は、輸出と建設景気不振の余波で、2025年の韓国経済は1.8%の成長に留まるとの見通しを示した。

緊急戒厳事態前の2024年11月末には、新年の韓国の経済成長率は1.9%と見込んでいた、韓国政府は、中央銀行である韓国銀行よりも厳しい経済状況になるとの見方を示した。

企画財政部は、「2025年の経済政策方向」を発表し、この中で2025年の韓国の経済成長率が1.8%と見込まれると発表した。

2024年7月初には、韓国政府は、輸出が何とか堅調な推移を続け、また、内需が回復すると期待して、2025年の成長率を2.2%としていたが、内需不振が長期化し、緊急戒厳以降の政治的不確実性が大きくなるとして、予測値を0.4%ポイント引き下げた。

韓国政府の、この2025年の経済成長率見通しは、2.0~2.1%と推定されている韓国の潜在成長率より低くなっている。

こうした中、韓国政府は消費者物価上昇率も韓国銀行の物価安定目標値(2%)より低い1.8%と予測している。

経済成長率と物価上昇率が共に1%台に留まるという政府の見通しが現実化すると、景気後退の懸念が更に大きくなる可能性がある。

 

l  野戦砲の販路をヨーロッパやエジプトに広げる韓国のハンファ・エアロスペース

韓国は産官学・金融力を合わせて防衛産業の強化に努めている国である。

そして今や、輸入代替化、自国防衛力強化を果たした上、防衛産業が輸出産業となり、外貨を獲得するにまで至っている。

こうした中、ハンファ・エアロスペースのK9自走砲を運用する国が世界的に増えており、K9とパッケージの形態で輸出されるK10弾薬運搬装甲車の輸出も拡大している。

K10は、重さ40キロ相当のK9用155ミリ弾薬をK9に自動供給する役割を担うが、ロボット型の弾薬運搬車両の開発に成功したのは世界でもハンファ・エアロスペースが初めてであると韓国では自画自賛されているものである。

ルーマニアは2024年7月にK9自走砲54門とK10弾薬運搬車36両を配備する1兆4,000億ウォン規模の契約を締結、これにより、K9配備国は計10カ国に増え、K9と共にK10を配備した国は韓国、ノルウェー、オーストラリア、エジプト、ルーマニアの計5カ国になっている。

K9配備国の半分はK10も選択している。

ルーマニアの自走砲事業でK9は、ドイツのPzH2000自走砲と競争した。

ハンファ・エアロスペースは、「NATO加盟国間の武器取引」という長年の慣行を破る為に差別化が必要であったが、そこで、「K10弾薬運搬車をK9自走砲とセットで販売出来る」

として、ルーマニア政府を説得、東欧にも輸出を拡大している。

 

l  日本人が最多の訪韓観光客

韓国観光公社が発表した統計によると、2024年11月に韓国を訪問した外国人観光客は136万人で、前年同月対比22.1%増加した。

新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の93%まで回復したことになる。

訪韓客を国・地域別にみると、日本が34万1,000人で最も多く、次いで中国本土(29万8,000人)、台湾(12万人)、米国(10万9,000人)と続いている。

日本、台湾、米国からの観光客は2019年11月に比べて32.0%。16.9%、32.5%それぞれ増加している。

中国本土からの観光客は同月の59%の水準となっている。

一方、2024年11月に海外に向かった韓国国民は前年同月対比16.0%増の239万人で、2019年11月に比べて14.4%増加している。

これにより、2024年1~11月の訪韓客の累計は1,510万人で、前年同期対比51.1%増加した。

2019年同期の94%に当たる。

同期間に海外を訪問した韓国国民の累計は2,597万人で、2019年同期の98%まで回復している。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,469.98(前週対比+2.67)

台湾:1米ドル/32.93ニュー台湾ドル(前週対比-0.11)

日本:1米ドル/157.21(前週対比+0.62)

中国本土:1米ドル/7.3176人民元(前週対比-0.0183)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,441.92(前週対比+37.15)

台湾(台北加権指数):22,908.30(前週対比-367.38)

日本(日経平均指数):39,894.54(前週対比-386.62)

中国本土(上海B):3,211.430(前週対比-188.712)

 

 

4.中東フリーランサー報告33

 

三井物産戦略研究所の大橋誠さんから昨年末に掲題のレポートを頂きましたので共有させていただきます。

大橋さんからは下記のメッセージを頂いております。

 

2024年最後の中東フリーランサー報告33をお送りします。前回発信直後に驚天動地のシリアアサド政権崩壊が起こり、ご愛読者の皆様方から意見を求められました。なにせホットテーマなので、メディアの報道に及ぶものはありませんが、この13年に及んだ悲惨な内戦の経緯を、過去の中東フリーランサー報告を振り返ることで、私なりの考察をお送りさせて頂きます。文中に言及したバックナンバーも、ご覧になりたい方はお申し出ください。お送りいたします。

今年も、中東フリーランサー報告をご愛読頂きありがとうございました。

皆様、良いお年をお迎えください。

大橋誠

 

 

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