· 

日賑グローバルニュースレター第350号

1.イーロン・マスクとDOGEのこの3週間のイニシアティブ ― その1

 

トランプ新政権の公約の目玉の一つが連邦政府の行政改革であり、トランプ大統領への大口献金者でテスラやスペースXSNSXなどを率いるイーロン・マスクがそのミッションを遂行するべく政府効率化省(DOGE)のトップとして大ナタを振るっている様子をワシントンポストが報じた。 ボリュームがあるので2つに分けてお届けする。 

創設からわずか3週間足らずの間に、マスク率いるDOGEサービスは、複数の省庁で、①自らに忠誠を誓う人物を指導部に据え、②内部データを吸い上げ(機密情報や極秘情報を含む)、③資金の流れを掌握し、④トランプ政権の目標にそぐわない職やプログラムを排除するという手順で、合法・非合法を問わず強硬な手段を講じてきている

その狙いは、政府機関の人員を削減し、広大な連邦官僚機構に対する支配力を強化し、連邦政府の規模を過去20年で最小規模となるまで縮小させることにある。

その結果、政府は民間企業への監視を弱め、提供するサービスを減らし、経済に占める割合を小さくするが、大統領からの指示にはこれまで以上に迅速に応じる組織となる

これまでの一連の動きはマスクのチームによって主導されてはいるが、単独や独断ではなく、トランプ大統領とその政権上層部も全面的に支持している。

また、マスクに対する抵抗勢力は、連邦裁判所、連邦職員の労働組合、議会の一部などで生まれつつあるものの、マスクの支持者は「彼の批判者はマスクの組織解体・変革の手腕を過小評価している」と指摘する。

連邦政府のあるべき姿と、そこに至るプロセスをマスクははっきりと見据えていることは、120日のトランプ政権発足以来の短期間で、すでに十分に証明されてきている

マスクが計画を成功させれば、連邦政府の職員数は少なくとも10%削減されることになる。

第一歩として、大量の自主退職を促す試みが行われる予定だが、これはマサチューセッツ州の連邦判事によって差し止められており、審理がこれから始まる予定である。

その後、強制的な解雇が本格化するとみられており、その対象には新規採用者や業績評価の低い職員が含まれる見通しだ。

こうした流れはこの1週間の間にマスクの支配下に置かれた人事管理局(Office of Personnel Management)から発行された職員宛通知で明らかになっている。

労働組合は今週、職員たちに対し、自身の業績評価や人事記録をダウンロードしておくよう勧告した。これらの情報が解雇の根拠として利用される可能性があるためだ。

また、政府が保有する非軍事施設の最大半数が売却される予定であり、政府オフィスの閉鎖や通勤時間の増加を引き起こす見込みだ。

さらに、リモートワークやテレワークに対する厳格な制限が導入されることになる。

この動きの狙いは、職員の士気を低下させ、退職者を増やすことにあると、マスクの管理下にある総務庁(General Services Administration)の内部事情に詳しい関係者は語っている。

当初、トランプはDOGEについて、「政権に対して拘束力のない助言を行う非政府組織だ」と述べていた。

そして大統領顧問の一部も当初は、このDOGEを「トランプを支援し、論功行賞は高いが、ワシントンの仕組みを何も知らない熱狂的な億万長者たちの面子を立てる飾りの場」と見ていた。

しかし、トランプは就任から数時間でDOGEをホワイトハウス内の正式な組織とし、情報技術を担当する米国デジタルサービス(U.S. Digital Service)に組み込む大統領令に署名した

そして、わずか数日で、マスクの野心が単なる政府のIT改革にとどまらず、連邦官僚機構全体を再構築することにあることが明らかになったわけである。

前述のDOGE4段階のアプローチはこれまで人事管理局(OPM)、総務庁(GSA)、連邦緊急事態管理庁(FEMA)、米国国際開発庁(USAID)、教育省に同じパターンで適用されているという。

イーロン・マスクを任用したトランプ大統領の当初の思惑とは別にというかそれを越える動きを見せているマスクだが、このワシントンポストの記事のトーンも「そこまでやるか」、「そこまでやるんだ」という驚きを含んでいると感じられる。

 

2. イーロン・マスクとDOGEのこの3週間のイニシアティブ ― その2

 

現行の公務員制度に代わるものとして、イーロン・マスクとその支持者たちはテクノロジーの活用を模索している。

DOGEの関係者は、大量の政府記録やデータベースを人工知能(AI)ツールに入力し、不必要な連邦プログラムを特定するとともに、どの業務をAI、機械学習ツール、さらにはロボットで代替できるかを分析している。

連邦職員の大量解雇は、トランプとマスクが議会の承認なしに連邦支出を削減したり、特定の省庁を廃止したりする道を開く可能性がある。

これは、これまでに例のない行政府権限の拡大となる。

今週、マスクの側近であるトム・クラウスが米財務省の財政サービス局(Bureau of Fiscal Service)の長に就任した。

この機関は、契約業者や助成金受給者から軍人家族や退職者に至るまで、年間数兆ドルの支払いを実行する役割を担っている

従来この局は、各連邦機関の指示に従って支払いを起こすだけであったが、クラウスの就任により、支払の是非の判断などその運用が大きく変わる可能性がある

関係者によれば、ホワイトハウスは既に一部の政府機関や省庁の予算を最大60%削減することを目指した予算文書の準備を始めている

トランプがこれらの削減について議会の承認を求めるかどうかは不透明だ。

合衆国憲法は財政権限を議会に付与しているものの、マスクとトランプ政権の予算責任者ラッセル・ヴォートは、行政府が単独で支出を削減する権限を持つべきだと主張している。

マスクの擁護者たちは、彼とトランプが民間では知られている「ゼロベース予算」という考え方を初めて連邦政府に適用しているのだと主張している。

「ゼロベース予算」とは、すべての支出をゼロから見直し、一から再構築する手法である。

この手法はマスクのこれまでのビジネス経営スタイルと同一である。

彼はツイッター(現X)を買収した際、従業員の75%以上を解雇した

また、テスラをはじめとする自身の企業では少人数の従業員体制を好み、すべての傘下企業で労働組合に強く反対してきた。

さらに、既存の規範やルールを押し破ろうとする革新の姿勢を見せている。 

DOGEの動きは迅速で、通常ならプライバシー問題を指摘する下級レベルのIT職員を飛び越え、幹部・上層部に圧力をかける。

関係者によると、DOGEのチームメンバーには、政府の膨大なデータにほぼ監視なしでアクセスし、編集できる強力なユーザーアカウントが与えられる

その結果、通常のセキュリティ手順を迂回し、驚異的なスピードで変更が加えられるため、機密データの保護を担当する政府職員たちは危機感を募らせている

総務庁(GSA)では、シリコンバレーの元経営者であるスティーブン・エヒキアン暫定長官と他のトランプ政権任命者が、全国の連邦政府の不動産の半数を削減することなどにより、コストを少なくとも50%削減することを強引に推し進めている。

エヒキアンは、今週庁内の職員に対し、オフィスから50マイル以上離れた場所に住む2,000人が、組織再編の一環としてさらに遠くに異動転勤させられる可能性が非常に高いと警告した。

この異動の決定は、マスクの全省庁統一の退職勧告の受け入れ判断最終日から数日後まで知らされないことから事実上の退職圧力となっている。

今後、マスクのこの大ナタが振るわれるほどにより大きな抵抗勢力が生じてくる可能性がある。

実際、DOGEが機密の連邦資料にアクセスすることを制限するための複数の訴訟が起こされているほか、議会は全ての連邦機関がその同意なしに廃止されることに反対するかもしれない。

また、労働組合は在宅勤務をしている組合員に対して、法的対抗策を計画している間は退職勧告を受け入れないようにと伝えている。

しかし、マスクを長年知る人々は、より大きな使命のために旧態依然のルールを破り、革新しようとする彼の一途な姿勢は類を見ないと言っている。

彼はかつて、テスラの従業員に対して、労働組合に加入すれば株式オプションを失うだろうと告げ、この発言は、全国労働関係委員会(NLRB)と裁判所によって違法な脅迫と見なされた。

また、彼は連邦航空局(FAA)とは許可なしにロケットを打ち上げたことで対立し、テキサス州の保護された湿地に廃水を投棄したことで環境保護庁(EPA)から罰金を科されたこともある。 

言い換えればそうした既存の成約や壁を乗り越えたところに彼の今日までの成功があるともいえる。

イーロン・マスクという人が、単にアウトローなのか真の革新者なのか、そしてその行動が米市民のためなのか、それともトランプと自らの名誉と実益(規制緩和など)のためなのか、今後の彼の言動が注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国本土の圧力を受ける台湾―南アフリカ関係

台湾政府・外交部は2月2日、在南アフリカの大使館に相当する「台北連絡代表処」を3月末までに首都・プレトリアから外部に移転するよう南アフリカ政府から要求されていると発表している。

また、名称も「貿易事務所」に改めるよう求められているとしている。

台湾政府・外交部は、南アフリカ政府側の要求は、「中国本土の台湾に対する圧力が更に強まっていることを示している」と見ている。

 

l  台湾女優の日本での死亡がもたらす影響

台湾の女優であるバービー・スーさんは、日本での春節休暇中に箱根で、インフルエンザによる肺炎により、48歳で亡くなった。

夫で韓国の歌手ク・ジュンイェさんは、2月3日の朝から彼女と連絡がつかなくなったとしていた。

この事態を受けて、台湾や中国、また韓国の一部では、「日本のインフルエンザ流行は深刻である。アーティストのスーさんが春節の時期に日本を旅行し、

残念ながらインフルエンザで亡くなった為、中国や台湾ではインフルエンザワクチンの接種ラッシュが起こっている。

最近では、海外旅行を計画している人も、インフルエンザによる海外での治療が旅行保険でカバーされるかどうかに注意して欲しいとのコメントも出ている。

専門家によると、インフルエンザは法定感染症であり、ほとんどの保険会社の旅行保険は法定感染症を補償対象から除外している。但し、既に医療保険に加入している場合は、請求することも出来る」

との見方が出回っており、日本のインフルエンザが原因と印象付けるような報道やSNSが散見され始めている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  保守系与党・国民の力の元代表イ・ジュンソク議員の大統領選挙立候補意欲表明

保守系与党・国民の力の元代表であり、今は離党して別の政党に所属しているイ・ジュンソク議員は2月2日に記者会見し、

「もしも、ユン・ソクヨル大統領が罷免され、大統領選挙が行われる事態となった場合には、役割を果たしたい」と述べ、立候補に意欲を示した。

リ議員は保守、進歩(革新)の2大政党を共に批判し、世代交代を訴えている。

 

l  韓国石油公社による対馬海盆石油埋蔵量発表

最大51億7,000万バレル規模の石油・ガスが日本海の対馬海盆一帯に更に埋蔵されているという点を韓国石油公社が確認している。

同公社が専門家らに依頼をして、現在、追加の検証作業を行っており、早ければ3月中にも検証作業が終わるものと見られている。

検証まで終われば、日本海の石油・ガス探査資源量は昨年発表された最大140億バレルに更に追加され、合計で最大191億バレルまで増えると見込まれている。

韓国石油公社は、「探査資源量最小6億8,000万バレル、最大51億7,000万バレルの石油・ガスが鬱陵海盆に更に埋蔵されている可能性があるという内容の用役結果報告書が昨年12月に提出され、既に検証手続きを踏んでいる」とコメントしている。

 

l  韓国IT大手「カカオ」との協業を発表したオープンAI

対話型人工知能(AI)である「チャットGPT」を開発した米国のオープンAIのサム・アルトマン最高経営者(CEO)が韓国で2月4日に開かれる同社のワークショップに参加した。

アルトマンCEOは韓国滞在中、IT大手である「カカオ」との協業を発表しており、日本でのソフトバンクグループとの連携同様、韓国勢との連携の意向も示している。

中国の新興企業である「DeepSeek(ディープシーク)」の低コスト・高性能AIに世界の注目が集まる中、これに対抗する為の本格的な拠点づくりを急いでいるものと見られている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,445.34(前週対比+10.36)

台湾:1米ドル/32.81ニュー台湾ドル(前週対比+0.16)

日本:1米ドル/153.05(前週対比+2.13)

中国本土:1米ドル/7.2718人民元(前週対比-0.0211)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,509.27(前週対比-8.10)

台湾(台北加権指数):23,161.58(前週対比-363.83)

日本(日経平均指数):38,831.48(前週対比-741.01)

中国本土(上海B):3,229.488(前週対比-21.113)

 

4. 寺島実郎さんメディア出演情報

 

一般財団法人日本総合研究所殿から掲題情報を入手いたしましたので下記共有いたします。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

53回放送:216日(日)午前11時~

前半では、1月にIMFより発表された最新の世界経済見通しをもとに、

2025年の世界経済の展望について分析します。また、最新の統計データをもとに、

所得と消費の変化等に着目しながら、「日本の埋没」の本質に寺島が迫ります。

後半では、ユーラシア・ダイナミズムの中での日米関係・米中関係の変化を視界に入れながら、

27日の日米首脳会談、そしてトランプ2.0下の米中関係について、

寺島独自の視点で掘り下げます。

 

是非、ご視聴頂けましたらと存じます。

 

寺島の一人語りの第3日曜日(202010月放送開始)と対談篇は、

YouTubeでの視聴総数が1,152万回を超えました。

真剣に時代と向き合いたいと思う大変多くの視聴者に、

世界の動きの本質を考える「座標軸」として

番組を熱心にフォローして下さっており、日本国内・海外在住の幅広い年代層の

方々にご視聴いただいております。

 

引き続き、皆様のネットワークご関係者へ、お知らせ頂ければ幸いに存じます。

 

※「楽天Rチャンネル」より、地上波での放送時間と同時刻に視聴できます。

https://channel.rakuten.co.jp/?channel=88

(Rチャンネルは登録不要で、無料で視聴できます)

 

5.中東フリーランサー報告34 

 

三井物産戦略研究所の大橋誠さんから掲題のレポートを頂きましたので共有させていただきます。 

大橋さんからのメッセージも下記いたします。 

 

今年初めの中東フリーランサー報告34をお届けします。

今回はシリア内戦のビフォーアフターについて、私の理解を整理してみましたのでご覧ください。

シリア情勢にはパレスチナ、レバノン情勢も大きく関係していますが、紙数の関係もあり、こちらは次回以降にしたいと思います。

今年も引き続き、中東フリーランサー報告のご愛読をそしてご批判を、よろしくお願い致します。

 

大橋誠

 

 

6.【2025/2/17】<外国人材活躍応援フォーラム>第4回セミナー「グローバル展開×外国人材」のご案内

 

来週17日(月)に開催されます公益財団法人川崎市産業振興公社主催の掲題セミナー(無料)に小生がファシリテーターとして登壇させていただきます。

前回は川崎フロンターレの幹部をお招きしてスポーツチームから学べる外国人と日本人のダイバーシティマネジメントのお話が大変有益でしたが、今回はスリランカのIT高度人材を取り上げての日本企業での成功例と教訓のお話を伺います。 直前のご案内で恐縮ですが、ご興味頂ける方は下記リンク内のWebフォームから是非お申し込みください。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/seminar/seminar-list/%E3%80%902025-2-17%E3%80%91%EF%BC%9C%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%9D%90%E6%B4%BB%E8%BA%8D%E5%BF%9C%E6%8F%B4%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0%EF%BC%9E%E7%AC%AC4%E5%9B%9E%E3%82%BB%E3%83%9F.html 

 

 

ダウンロード
中東フリーランサー報告 34.pdf
PDFファイル 1.1 MB