1.米国大統領就任式直後の大統領令と訴訟の数々
大統領令(Executive order)に代表されるPresidential directives(大統領指令)とは、アメリカ合衆国の大統領が行政機関や政府全体に対して発行する公式な指示やガイドラインを指すもので、法律を執行したり、政府の政策を設定したりする際の指針を示すものである。
今週20日に就任したトランプ大統領は報道の通り大量の大統領令を出し、バイデン前政権の政策を転換させると共に、自らの選挙公約を果たす姿勢をアピールしている。
その中には、移民の国アメリカを特徴づけてきた合衆国憲法修正14条の生得権としての市民権を不法移民のアメリカでの出産の場合には認めず、国務省をしてパスポートを発給させないとする指令が含まれている。
これに対し、ワシントンポストによれば、ニュージャージー州やニューヨーク州、カリフォルニア州を含む18の州とワシントンDC及びサンフランシスコ市が、この大統領令は違憲であり、影響を受け得る子供たちがいる自治体におけるメディケイド(低所得層に対する国の医療保障)や子供の医療保険に関する連邦政府の資金負担がなくなることで州政府や自治体に不当な経費負担が生じるとして、連名でマサチューセッツ州において訴えを起こした。
アリゾナ州、オレゴン州、イリノイ州及びワシントン州は同じ趣旨の訴訟を21日にシアトルで行い、自由民権運動団体や民権弁護士はニューハンプシャー州やマサチューセッツ州で夫々移民の両親を代理する形で訴えを起こしている。
この訴えは就任式翌日の21日であったが、トランプ大統領による政府部外組織としての通称DOGE(政府効率化省(Department of Government Efficiency))の創設と、イーロン・マスク氏の任命に関しては、議会での大統領就任宣誓式の最中に3件の訴訟がなされた。
DOGEの創設は政府の諮問機関の透明性に関する法律に違反するという内容である。
50年前に施行された連邦諮問委員会法は情報開示や委員の採用、その他のルールを個別に定め、政府の諮問委員会はそのルールに従うことを求めるもので、この法律に抵触するという訴え。
またLGBTQの支援団体はトランプ大統領による反LGBTQ的指令が具体的な行政指示になった段階で訴訟を起こす準備中という。
たとえば、「生得の性別がパスポートやその他の書類に記載されなければならない」といった指示が国務省に出された時点での訴訟になる。
不法移民をターゲットとした冒頭の大統領令は、市民権の無い合法的滞米者の両親例えば観光ビザや仕事で一時的に米国に滞留し、そこで生まれた子供にも適用されるという。
私は米国駐在中に二人の子供を授かり、いずれの子供も自動的に米国の市民権を得て、アメリカのパスポートを頂いたのを覚えていますが、今回の大統領令が駐在員家族にも及ぶかどうかは記事では読み取れません。
署名から30日後に発行する大統領令ですが、400万人ともいわれる非合法移民の子女に適用される影響の大きさ以上に、そもそもアメリカとはどういう国なのかという国是に関わる内容であることから、たとえ保守派判事が圧倒的多数の最高裁でもこれを認めないであろうとの観測です。
当のトランプも記者から司法判断で覆る可能性を尋ねられて、「そうなるかもね」とその可能性を悪びれずに認めているようで、変革実現よりもまずは公約を果たすジェスチャーの方を急いだのかもしれません。
2. 連邦政府に緊張が走るトランプ人事
トランプ大統領は21日、DEI(多様性、公平性、包摂性)に関連する業務に従事するすべての連邦政府職員を、水曜日午後5時までに休職とするよう命じた。
その結果、例えば教育省の場合、職員に送られたメールでは、すべてのDEI関連のオフィスが閉鎖され、すべてのDEI関連の契約が終了されると通知された。
「これらのDEIのプログラムは、人種によってアメリカ国民を分断し、納税者の資金を無駄にし、恥ずべき差別を引き起こしてきた」と、新任の首席補佐官のレイチェル・オグルスビー氏は書いている。
22日には、トランプ大統領は連邦政府の雇用慣行における差別を禁止するという60年前から続く大統領令を撤回した。
それとは別に、「オフィス復帰に関する大統領令」は、連邦職員とその上司を困惑させている。
この大統領令は主たる業務場所を自宅やレンタルスペースなどオフィス以外にすることを禁止するものだが、この命令が主たる業務場所はオフィスにしている職員が在宅勤務(テレワーク)することも禁止するものか不明なための困惑である。
一方でワシントンD.C.地域全体で、パンデミックとリモートワークの普及が商業地域に深刻な打撃を与えており、特に、労働力の約4分の1を連邦政府職員が占めるワシントンでは、その影響が非常に壊滅的で、オフィスの空室率が都市の長期的な財政健全性を脅かしていた。
ワシントンDCのバウザー市長は民主党選出ではあるものの、職員がワシントン内のオフィスに戻ることを期待し、この大統領の「オフィス復帰令」を支持すると表明している。
さらにトランプが発令した、多くのキャリア連邦職員から雇用保護を剥奪する命令は、トランプ氏やその支持者が「ディープステート」と呼ぶ官僚機構を抑制するために必要だとホワイトハウスは主張するが、雇用に関わることだけに、連邦政府内の話に留まらず、職員組合、議会、裁判所その他利害関係者を多く巻き込み実現性には疑問が持たれている。
一方、トランプが、自ら選んだ人物に一時的なセキュリティクリアランスを付与する指令は、情報漏洩やさらにはスパイ行為につながる可能性があると、専門家や元政府高官は指摘する。
トランプは就任初日に、「セキュリティクリアランスの遅延を解消する」ための覚書に署名している。
この命令は、大統領が任命する国家安全保障関連に従事する人物が国家の機密情報を危険にさらす可能性があるかどうかを調査する通常の手続きを省略するもの。
具体的には、この覚書は、ホワイトハウスの顧問が作成するリストに記載された関係者に対し、「最大6か月間」という期限付きで即時の最高機密クリアランスを付与するもの。
ホワイトハウスのこの緊急対応の背景には、トランプ政権の国家安全保障会議からキャリア官僚を一掃する思惑があると見られている。
司法省の国家安全保障担当上級職の人間もすでに複数左遷された事実も発覚している。
また、大統領就任当日、トランプは50人の元国家安全保障担当官のセキュリティクリアランスを剥奪した。
その結果、彼の政治任命者が機密コンピューターシステムやその他の業務に必要な技術にアクセスするためのクリアランスを取得するまで、特に最低限の体制しか維持できない状況が生じていた。
自らの政策をスムーズに実行するという目的と、ロシア疑惑など自分の第一期政権で足を引っ張ったり、反抗した人間に対する復讐と言う目的と、自分の再選に貢献した人間を早々に身近に置きたいという狙いとが入り混じった人事発令と言えよう。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l ペンス元副大統領の台湾訪問
頼清徳総統は、中国本土の台湾に対する強硬姿勢が強まる中、米国のペンス元副大統領と台北市の総統府で会談した。
頼総統は、ペンス氏の副大統領当時の台北支援のお蔭で、トランプ政権第1期に台湾と米国の関係は前例のないほど関係が緊密化したと述べると共に、更に、米台関係の緊密化が進展することを期待しているとの姿勢を示した。
l 台湾企業の日本進出支援出先機関吸収設置へ
台湾の郭智輝経済部長は1月10日、2025年の目標の一つとして、台湾企業の進出を支援する会社を当局主導で日本の九州に設置する方針を掲げている。
福岡県が有力な候補地であるとしている。
台湾企業の対日進出は更に増える可能性がある。
l 台湾、米台二重課税回避法案が米下院通過
台湾政府・行政院経済貿易交渉弁公室は1月17日、米国下院が1月15日に台湾と米国の二重課税回避法案を賛成多数で可決したことを歓迎するとコメントしている。
この法案が可決されれば、米国に於ける台湾企業の投資環境はより安定するであろうと見られている。
当該法案が米国上院でも可決されれば、台湾にとっても、投資環境の整備、強化が更に進むこととなるとしている。
l NVIDIAの第二本社台湾設置構想
台湾系華人率いる米国・NVIDIAは台湾に第二本社を置く計画を推進している。
こうした中、その本社を置く場所の選択についても台湾国内では大いに注目されている。
こうした市場のニュースを受けて、台湾財界からは、
「NVIDIAが台湾に第二本社を置くことを嬉しく思う」としつつ、その本社と台湾での工場を何処に建設するかに関心を集まっており、また、
「台湾は近年AI化などのビジネス環境を整備していることもあり、NVIDIAが台湾に進出してくれば、NVIDIAにとっても台湾企業にとっても効果は大きい。」
との声が高まっている。
尚、NVIDIAは現在、最大3ヘクタールの土地を求めているが、台北市中心部での適地確保には課題もあるとの見方もあり、一方、新たな拠点は米国本社に匹敵する規模を目指しており、台湾に於ける研究開発拠点計画との連携も必要ではないかとの見方がある点、付記しておきたい。
l 中国人口前年比139万人減少
中国政府・国家統計局は、香港やマカオを除く中国本土の2024年末時点の総人口が14億828万人(前年対比139万人減)となったと発表している。
1949年の中華人民共和国建国以来、初めて3年連続のマイナスを記録した。
2024年の出生数は前年を上回ったものの、65歳以上が占める割合が前年から0.2%増の15.6%となり、今後も少子高齢化による人口減は止まらないとの見方が強い。
(2) 韓国/北朝鮮
l キメ空港、国際線旅行客数2023年比38%増
韓国南部・プサン市にあるキメ国際空港の2024年の旅客数が1,575万人を超えた。
韓国政府・国土交通部の航空統計によると、2024年にキメ空港を利用した旅客数は1,575万2,458人(うち国際線900万5,803人、国内線674万6,655人)となった。
国際線旅客数はインチョン国際空港に次いで2番目に多く、2023年に比べ約38%増加した。
一方、国内線旅客数は同約6%減少している。
国際線のうち日本路線の乗客が342万1,017人で全体の37%に達している。
台湾路線は外国人乗客が50%を占め、プサン市とキョンサン南道の外国人観光客誘致に貢献した路線に挙げられる。
国際線で最も多くの旅客を輸送した航空会社は韓国格安航空会社(LCC)のエアプサンで278万5,308人、次いでチェジュ航空、ジンエアー、ベトジェットエア(ベトナムのLCC)、大韓航空などの順となっている。
尚、キメ空港は、国際線利用客1,000万人達成を今年の目標に掲げている。
l 外国人旅行者向け観光・ショッピングイベント「コリアグランドセール」開催
韓国政府・文化体育観光部は、韓国訪問委員会と共同で、外国人向けのショッピング・観光イベントとなる、「コリアグランドセール」を2月28日まで開催すると発表している。
2011年から毎年開催されているコリアグランドセールは訪韓観光客が少ない冬場に外国人観光客を誘致し消費を促進させる為の様々な割引と体験イベントを実施するものである。
今年は過去最多の約1,680社が参加している。
航空プロモーションには大韓航空、アシアナ航空など韓国の航空会社10社が参加し、214路線で最大94%の割引を行う。
旅行予約サイトのトリップドットコム、韓国旅行情報サイトのコネストと共に外国航空会社の中国・香港・日本発韓国行きの航空券を最大31%割引で販売する。
宿泊業界ではイビススタイルズアンバサダー、メイフィールドホテルなどが参加する割引イベントやロッテ百貨店、新世界百貨店、現代百貨店、ギャラリア百貨店、ロッテ免税店、新世界免税店、新羅免税店、新羅アイパーク免税店、現代免税店、ロッテマート、ドゥータモール、ロッテアウトレット、新世界サイモン、現代アウトレットなどが参加するショッピングイベントも行われる。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,452.77(前週対比+20.92)
台湾:1米ドル/32.81ニュー台湾ドル(前週対比+0.16)
日本:1米ドル/155.82(前週対比+2.79)
中国本土:1米ドル/7.3264人民元(前週対比+0.0061)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,523.55(前週対比+7.77)
台湾(台北加権指数):23,148.08(前週対比+136.22)
日本(日経平均指数):38,451.46(前週対比-738.94)