ダイバーシティマネージメント 3

Yoneyama, August 2022

#6 IKEAのダイバーシティマネージメント

 

異文化マネジメントがダイバーシティの結果にもたらす影響と組織文化がそこに果たす役割

 

本研究の2つ目の問いはダイバーシティと異文化マネジメント、そして組織文化の間の相関関係である。特に、ある組織が、ダイバーシティを組織文化に適用するという組織管理戦略を実行することでその職場におけるダイバーシティの結果にどのような影響を与えられるかという問いである。本稿で分析されたデータはIKEAがそのアジェンダにおいてダイバーシティを1つの重要なポイントとしたことを指示している。

 

さらに、文化と性のダイバーシティはIKEAの組織文化とアイデンティティの一部となっている。 IKEAの社員はIKEAと同じ価値観を共有し、ダイバーシティというものを何か前向きなものとしてとらえている。1つの結論として、IKEAが用いる異文化戦略はダイバーシティを仕事の自然な一部とするかたちで機能している。組織文化はダイバーシティとユニークさを高める価値観に基づいている。加えて、この価値観を共有する人々を採用する管理戦略は同じ価値を職場に期待する人々の数を増やしていく。 IKEAがダイバーシティの結果をプラスに働かせるためのもう1つの管理的特徴が、同社が社内はもとより社外でも用いる明白なコミュニケーションである。

 

IKEAは自らの強い組織文化に誇りを持っている。組織の価値観とクレド(信条)を何度も、いたるところで繰り返していくことで組織文化派内側から強化されていく。組織文化はダイバーシティの大きな潜在的力の活用につながる異文化マネジメントを成功させるための基盤として認識される。強力な組織文化が残り続けるためにその新たな担い手となる社員の選考は慎重になされ、採用後は組織的適合化のプロセスが適用される。 

 

新入りは先輩から会社の価値観について教えてもらうことになる。 社員間で語り継いでいく価値観と言う知識はIKEAの組織制度的メモリーとなる。これによりIKEAの組織文化が形作られ、変化や拡張の時を経ても組織を変わらずまとめる糊となって働きている。IKEAの成功は組織のさらなる拡張を生み、まったく新しい社員が世界中から入ってくる。これらの新たな組織をまとめ上げる組織文化がより一層大切になる。

 

#7 IKEAのダイバーシティマネージメント(最終回)

 

管理職に対する提言

 

ビジネス環境はかつてないほどにグローバル化し、国境を超えた相互依存関係が深まっている。その結果職場にも多様性が増してきている。ダイバーシティは、うまく管理できないと困難をもたらし、うまく管理できればチャンスをもたらす。異なる考え方や視点は創造性やイノベーションをもたらしてくれる。そうしたチャンスを生かすには職場において安心・安全が確保されている必要がある。

 

 

社員が失敗を恐れず、勇気をもって探求、革新、創造に向けてチャレンジできる環境である。管理職はそのような安心・安全な職場環境を設けると共に、このダイバーシティの長所が発揮され、その短所が出ないように管理できるような戦略を講じたい。異動や転勤でメンバーが継続的に出入りする職場で上述の職場環境を築き続けていくことはなかなか難しいことである。

 

そのための1つの提言は社員全員が一体感を感じるような組織文化を形成することである。社員それぞれの出身国の文化よりも強い組織文化である。その文化に合致する社員の採用のためのスクリーニングのツールと共に、採用後の社員に繰り返し組織文化を刷り込むツールが必要となろう。

 

そのようなツールに注意を払っていくことで組織適合化のプロセスが始まり、それにより従業員の一体化が進んでいく。もし組織文化が十分に育って強ければ、組織適合化プロセスを通じ個々の社員の出身国の間の異なる文化の違いを乗り越えることができるであろう。それにより一体感が醸成され、組織文化の下となる知識が組織内で受け継がれるシステムというものが育つ。この知識や価値として強調されたものは組織制度化され、組織制度的メモリーとして保存されていく。これは出入りのある社員の存在から独立している。

 

 

 

以上から、管理職にとっての課題は、それぞれ異なるテクニックを自在に駆使し、組織的適合プロセスと組織的制度化を通じて多様性を持つ職場を実現することを容易にする強い組織文化を創造することにあると言える。